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福井県ならではの郷土料理「サバのへしこ」。 日本海に面した福井市越廼(こしの)地区。寒流と暖流が交わる好漁場で漁獲された、豊富な海の幸が茱崎(ぐみざき)漁港に水揚げされる。 前回は福井県若狭地方のへしこを紹介したが、県北部にも絶品のへしこがあると聞いて、訪ねてみた。

へしこ界のフルーツ系!? 女性漁師の技が活きた ジューシーでフルーティすぎる、美しき「越廼のへしこ」~福井市編~

福井県ならではの郷土料理「サバのへしこ」。 前回は福井県若狭地方のへしこを紹介したが、県北部にも絶品のへしこがあると聞いて訪ねた。 日本海に面した福井市越廼(こしの)地区。 寒流と暖流が交わる好漁場で漁獲された、豊富な海の幸が茱崎(ぐみざき)漁港に水揚げされる。

茱崎漁港。 アマダイ、ヒラメ、サバ、アジ、イカ、ブリ、 サワラやアワビ、サザエ、ウニ等の貝類、 ワカメ、モズク・アカモク等の海藻類などが 水揚げされる。

越廼漁業協同組合婦人部の有志が結成する「ぬかちゃんグループ」では、越廼地区で昔から行われてきた伝統的な方法でへしこづくりを行う。 その味わいは「一度食べると忘れられない」と、多くのファンをもつ。

ぬかちゃんグループ代表の代表を務めるのは上野志津子さん。 1938年生まれ、御年81歳。 わ、若い!!!!  とてもその年齢には見えないうえに、なんと、元漁師!!  30年にわたって、北は稚内、南は対馬まで漁船に乗り、スルメイカ漁を行ってきた。

「ぬかちゃんグループ」の 上野志津子さん(右)と北崎和代さん。

「私が子どものころは、『女が船をまたいだらあかん』と言われていた時代でした。 けど、船の仕事が好きで好きで、漁師だった父の手伝いをしてました」と上野さん。 20代、神戸のデパートに勤めていたころも「釣り竿をもって、神戸港でしょっちゅう釣りをしていた」というほどの『お魚女子』は結婚後、30代でついに念願の漁師デビュー。 いまも、もちろん当時も、女性漁師は極めて珍しい存在だ。 「大変ではなかったですか?」 「いや、別に」 余裕の笑顔の上野さん。 「うちにいるより沖にいたほうが楽しい(笑)」 当時、スルメイカ漁は100メートルのロープを手でたぐっていたという。 力仕事もノープロブレム。 風速35mの台風の日に、沖に出ていたこともある。 「とにかく漁が好きやったの」 70代に入って「船をおりるつもりはまったくなかったけれど」息子さんから、「そろそろ心配」といわれて引退。 「さあ、どうしようかなあ」と思っていた上野さん。 陸にあがっても魚愛はひとしお。 美味しい越廼の魚介をもっと多くの人に知ってほしいと、地元の魚を加工・商品化する「ぬかちゃんグループ」を結成した。 越廼はへしこづくりが盛ん。 貴重な食文化の継承をという思いも込めて、商品化に取り組んだ。 越廼ではさまざまな魚のへしこが作られているが、まず、手掛けたのがサバのへしこ。 なんといっても元・漁師。魚のことは知り尽くしている。 試行錯誤して完成させた。 「越廼のへしこは、よそとは作り方が少し違っているんです」と上野さん。 へしこづくりが行われる時期は、だいたい6月。 夏前だ。

ぬかちゃんグループの 作業場に並んだへしこ樽。

越廼のへしこづくりでまず、大切なのは「サバの鮮度」。 水揚げされたサバは、すぐにさばく。 「鮮度が落ちると、身の締りが悪くて美味しくなくなる。 昔は、水揚げされたと聞いたら子どもにごはんを食べさせていても、へしこづくりに飛んでいきました。 『ごはんは、へしこがすんでからな』というてな(笑)」 開いたサバは、1週間塩漬け。 そして、糠につける。 糠に混ぜるのは塩と、唐辛子だけ。 ほかには何も加えない。 これも越廼流。

へしこは開いたまま糠漬け。 これも珍しい。 越廼ならではの特徴。

糠は福井県産コシヒカリを使用。 「糠はふるいにかけてから使うところが多いけれど、越廼はそのまま使います」と上野さん。 米の粒がそのまま残ることで、へしこに甘みが出るのだという。 上野さんが樽の中のへしこを見せてくれた。 「ピンク色できれいやろ」

へしこの身の色が薄いピンク色。 きれい!

たしかに!!  へしこは少し黒ずんだ色になることが多いが、色がきれい。 「これも越廼のへしこの特徴やけえ」 1樽に150~200匹を漬け込み、約1年2ヵ月熟成させる。 おおむね、へしこは秋に漬け込み、翌年の夏を越えたころに引き上げることが多いのだが、越廼のへしこは「夏を2回越す」のも特徴のひとつだ。 「なんでそうなのかといわれたら、昔からそうだったから」と上野さん。 先人の技を残してこそ、越廼の味。

さばだけではなく、 イカやシイラからアジやトビウオの へしこもつくる上野さん。 へしこ名人!  サバは現在は漁獲量が減っているため 日本海産を使用。 「越廼では国産しか使いません」(上野さん)。

そんなへしこをいただいた。 上野さんが、北崎さんとさまざまなへしこ料理を用意してくれた。 「いまの時代にあった料理も必要」と、グループの仲間と工夫して編み出した数々だ。 まずは自慢のへしこを刺身でいただく。美しい色合いのへしこをひと口かじると……。 わっ。 みずみずしい!!  そして果物のようなさわやかさ。 ジューシーでフルーティ。 その味わいは、へしこ界における「フルーツ系」。 しょっぱさもない。 くどさも一切ない。 大根といっしょに、いくらでも食べられてしまう美味しさだ。

見るからにジューシーなへしこ。 もちろん、食べてもみずみずしく「生」感が強い。フルーティ♪

「へしこのちらし寿司」は、にんじんなどの野菜と、刻んでフライパンで炒ったへしこを酢飯に混ぜ込んである。 「塩は一切使っていません。へしこで味をきめてます」。 へしこの旨みがしみ込んで、やさしい味わい。 ほっこり。

へしこのちらし寿司。 塩は使わず、へしこの旨みだけで絶妙な味わいに。

へしこは洋風アレンジもおすすめだ。 ぬかちゃんグループでは、へしこをみじん切りにして、とうがらし、にんにくとオリーブオイルで炒めた「サバのへしこオイル漬け」も開発。 こちらを使ったおすすめ料理は「サバのへしこのそばパスタ」。 「パスタでもおいしいけれど、そばが合うね」と上野さん。 ゆでたそばに、へしこオイル漬けをからめ、野菜をたっぷりのせて冷製パスタ風に仕上げてある。 へしこが濃厚なコクを醸し出した絶品!  へしこは、いわば「和のアンチョビ」。 そばとの相性もバッチリだ。

「サバのへしこのそばパスタ」。 料理番組で優秀賞を獲得したこともある。

こちらは「シイラのへしこ」。 なんと5年もの! コクうま。

イカのへしこも自慢の一品。 きわめて濃厚。とんでもなく美味しい。 なんと、イカは漬ければ漬けるほど美味しくなるらしい!!!!

「へしこはコロッケの具、チャーハン、生春巻きにしても美味しい。毎日食べてます」と上野さんがにっこり。 健康にもよいへしこ。 へしこ樽の重しをすいっとかつぎ、キビキビと動く上野さん。 正直、これほどジーンズが似合うカッコいい80代女性にこれまでお目にかかったことがない!!  きっとこれは、へしこ効果に違いない!! ジェンヌさん、へしこでサバマダムを目指そうと決めました……。 越廼の「美しき、フルーティなへしこ」で、美味しく元気に♪

■越廼漁業協同組合 ぬかちゃんグループ https://jf-koshino.com/jyoseibu/ 東京都内では、福井県アンテナショップ「ふくい南青山291」「食の國 福井館」で販売。

池田陽子(いけだ ようこ) サバファンの集い「鯖ナイト」や、日本中のサバ好きが集まる「鯖サミット」などの活動を担う「全さば連(全日本さば連合会)」広報担当/サバジェンヌとして活躍。本業は薬膳アテンダント/食文化ジャーナリスト。著書に『ゆる薬膳。』(日本文芸社)、『缶詰deゆる薬膳。』(宝島社)、『春夏秋冬ゆる薬膳。』(扶桑社)、「ゆる薬膳。」はじめたらするっと5kgヤセました!(青春出版社)、『サバが好き!』(山と渓谷社)など。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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この記事のライター

池田 陽子
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