「WINDY LADY」 デビュー・アルバムがいきなり海外録音
ぼくの好きな山下達郎の曲、その2は1976年のデビュー・アルバムに収められた「WINDY LADY」だ。デビュー作『CIRCUS TOWN』は、ニューヨークとロサンゼルスで録音されている。デビュー・アルバムが、いきなり海外録音。そこに原盤元の期待がうかがえる。
バック・ミュージシャンも、アラン・シュワルツバーグ、ウィル・リー、ランディ・ブレッカーなど洋楽ファンならレコード・クレジットで眼にしたであろう、一流処も参加している。当時の洋楽レコードに負けない音質の素晴らしさと音楽的センスが、このアルバムと、「WINDY LADY」に詰まっている。
“街なかには何もないよ 愛なんてつかの間の幻さ”という歌詞も21世紀の現在を暗示している。
「蒼氓」 この曲を書くために山下達郎は生まれて来たのではないか
3曲目は1988年のアルバム『僕の中の少年』に収められた「蒼氓(そうぼう)」だ。ちなみにタイトル曲は、彼が子供に捧げた曲のように思える。
「蒼氓」を聴いていて思うのは、山下達郎はこの曲を書くために生まれて来たのではないかということだ。彼の人生観、市井の民、庶民でありたいという願いが込められている。
“憧れや名誉はいらない 華やかな夢も欲しくない 生き続ける事の意味 それだけを待ち望んでいたい”という歌詞の内容は、市井の民として音楽を作り続ける、山下達郎のメッセージだと思う。
“この道は未来へと続いている”
そう歌う山下達郎の呼びかけに心が揺さぶられる。
バックコーラスには、夫人の竹内まりや、桑田佳祐、原由子が参加している。今から33年前の曲だが、古さはまったく無い。日本のポップスの高みを極めた名曲だと確信する。
山下達郎の名盤の数々。1980年の『RIDE ON TIME』(中央上)は、同名シングルの大ヒットを受けて制作された
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約350万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。
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【連載第1回】山下達郎はなぜ「アーティスト」と名乗らないのか 音楽の達人“秘話”・山下達郎(1)