フレンチを肩肘張らずに楽しめる、それを福岡に持ってきたレストランがあります。『ボンジュール食堂』です。同店を開いたシェフが今手掛けている『ル・ピュイ』もまた、アットホームなレストランであります。シェフが思うフレンチを直撃しました。
画像ギャラリーフレンチのイメージを変えてくれた『ボンジュール食堂』
福岡のフランス料理の裾野をぐっと広げてくれたシェフがいる。原田大輔さんだ。
今は、フレンチといっても多様で、決して遠い存在じゃない。でも、ひと昔前は普段着じゃ行けない、ちょっとかしこまった料理だった。おしゃれして食事に行く。それが、フレンチの楽しさでもあるのだが、日常的に食べるものではないと思われていた。
じゃあ、フランス人は毎日何を食べているのかというと、日本に定食屋があるように、フランスにも気軽な食堂がたくさんある。思えば、当たり前のことだが、日本には高級なフレンチが先に入ってきたために、そのイメージが囲いを作ってしまったのだろう。
原田さんは、海外でも仕事したことがあるシェフだったが、約20年前、自分の店を開くにあたり大好きなパリの食堂にしようと思った。
「ランチタイムならビジネスマンやキャリアウーマンだけでなく、作業服を着た男性同士ががっつり食べて、そのまま現場に戻っていくような、そんな普段着の食堂にしたかったんですよね」。
価格設定も、「今日は奮発して……」でなく、無理なく払える金額で。そんな思いで開店したのが『ボンジュール食堂』だった。
ギンガムチェックのクロスがかかったテーブルや壁に貼られたポップなポスターなど、パリの下町にある食堂のような可愛い店だった。
おまかせコースはなく、パリの食堂によくあるプリフィックスを採用。メニューに並ぶ、前菜、メイン、デザートから好きなものを選び、自分でコースを組み立てる。コースで2000円台の価格設定は、フレンチをぐっと身近にしてくれた。ランチも1000円以下だ。
うやうやしいサービスもなく、メインの料理は皿にどっかりと盛り込まれ、「フレンチは気取っている」などのイメージを払拭した。「フランス人が毎日食べているような料理を出したい」。原田さんは、たびたびパリを食べ歩き、料理の幅も広げていった。
『ボンジュール食堂』は、若者だけでなく、フレンチ大好きな大人世代も巻き込み、連日大勢の客で賑わった。「パリと同じ味と雰囲気だから」と、フランス人の常連客も少なくなかった。彼らが来店してくれるおかげで、店の本場感もぐっと増した。
フランス料理は、決して特別なものじゃない。むしろ、気軽に、毎日食べてもいい。そんな思いが、フレンチの裾野を大きく広げたのだ。
ガレットの美味しさを広く教えてくれた『ル・ピュイ』
『ボンジュール食堂』は、福岡の人々の日常に溶け込み、親しまれるようになってきた。この食堂に、「フレンチだから」と身構えて来店する客はいないはずだ。
現在も『ボンジュール食堂』は変わらぬ雰囲気と活気の良さで営業しているが、店を切り盛りしているのは原田シェフではない。
スタッフに店を譲り、自身は『ボンジュール食堂』の一軒隣『ル・ピュイ』でフレンチを作り続けている。
看板メニューの「ガレット」はフランス・ブルターニュ地方の郷土料理で、焼いたそば粉のクレープ生地の上に食材を乗せたもの。パリでも人気のメニューで、ガレットの専門店が並ぶ、「クレープ通り」と呼ばれる区域もあるほどだ。
ガレットは最もオーソドックスなハム・卵・チーズが780円。定番だけど、「ガレットが食べたいな」と思った時にイメージするのはやっぱりこれ。
もし、ガレット初体験なら、ここからスタートすれば、そば粉の香りがする香ばしい生地の美味しさとハムや卵、チーズの相性の良さに幸せな気分が味わえる。
『ル・ピュイ』では、当初ガレットだけを出していたが、最近では『ボンジュール食堂』とは異なる料理も出している。
例えば、パリの下町の小さな食堂の名物メニューのような、ちょっと凝った料理もお目見えする。原田さんがひとりで店を切り盛りしているので、時には料理ものんびりペースになるが、そこもパリっぽく思える。
メインの料理には付け合わせもたっぷり盛り込まれる。どんな付け合わせにするか、決まってはいるが常連が来ると、原田さんはちょっと変えることもある。
「この人はこういうのが好きだったとか、こんな調理を喜ぶとか、ファミリーレストランじゃないんだから、マニュアルで決められた通りの料理だけじゃ、つまらないでしょ」と原田シェフ。
シェフオススメの「鴨肉のステーキ」1300円は、昼のメニューから。この日のソースは、風味豊かなグリーンペッパーソース。赤ワインとの相性抜群だ。
そして、デザートは「有塩バターと砂糖のクレープ」(550円)。リンゴのブランデー・カルバドスでフランベすると(+1100円)風味がグッとリッチになる。デザートにたっぷりお酒を使ってくれるのもパリ流だ。
普段甘いものを食べない人も、こんなデザートで贅沢すると、しばし、パリのカフェにいる気分になれる。次は、どんなパリが感じられる料理を作ってくれるのか、次回の訪問が待ち遠しくなる店なのである。
■『ル・ピュイ』
[住所]福岡県福岡市南区塩原3-26-23
[電話番号]092-555-4288
[営業時間]11時半~14時半、18時〜21時
※開店時間は遅れる場合あり
[休日]不定休
[交通]西鉄天神大牟田線大橋駅から徒歩約5分
取材/牛島千絵美 撮影/松隈直樹
※全国での新型コロナウイルスの感染拡大等により、営業時間やメニュー等に変更が生じる可能性があるため、訪問の際は、事前に各お店に最新情報をご確認くださいますようお願いいたします。また、各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いいたします。
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