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ライヴで「本当に寝ちゃった……」

酒が大好きだった。自分が気に入らないとライヴでもテレビ出演でも辞めて帰ってしまう人だった。酒に酔ってステージに上がり眠ってしまうこともあるというのが、高田渡のファンには伝説となっていた。その真否を本人に訊ねたこともある。

1、2回だけど本当に寝ちゃったことがあったな。自分で歌ってて、あまりに気持ち良くてね。お客さんにヤジられて、ハッと眼を覚まして歌い続けたんだけど、俺が気持ちよく寝てるのに起こすなよ、という感じだった。でも、さすがにステージで眠り込むのはまずいので、それからはステージの前は少しお酒の量を減らすことにしたけどね

伝説は真実だったのだ。

五つの赤い風船とのデビュー・アルバムに「自衛隊に入ろう」という歌があった。自衛隊を非難するフレーズは一切ない。入隊を勧めることで、自衛隊、日本全体を批判する、いわば誉め殺しの歌だった。当時、自衛隊に入隊する若者が少なく、大きな駅の出入り口などで“自衛隊に入りませんか”と勧誘を受けることがままあった。ぼくも何度か声掛けされたことがある。

自衛隊から電話があった!

ただ歌詞だけ読めば、自衛隊の勧誘ソングに聞こえるこの曲を、自衛隊が気に入って、いわゆる応援ソングにしたいと高田渡に連絡を入れたという伝説があった

ああ、その話は本当だよ。自衛隊の人から電話があったんだ。丁寧にお断りしたけど、笑えたね。お役人なんて、皆、ジョークが分からないとは思ったけど、本当にそうなんでびっくりした。歌ひとつでも結構、怖いことが起こるもんだ”と後に高田渡は教えてくれた。

かつて、ベトナム戦争を批判した1984年発表のブルース・スプリングスティーンの大ヒット曲「ボーン・イン・ザ・U.S.A」の“BORN IN THE U.S.A”のタイトルだけに着目して、ロナルド・レーガンがその年の大統領選でこの曲を使い、スプリングスティーンの労働者階級での人気を利用しようとしたことがある。スプリングスティーンはすぐさま、曲の使用について大いなる不快感を示した。そのずっと前にこの日本で、それに似たことが起きていたのだ。

“ああ、そうだよ。権力者っていうのは、いつの時代でも利用できるものは、何でも利用したがるんだ。ずっと昔からね”

高田渡にブルース・スプリングスティーンのこの話を詳細に伝えたところ、そう言っていた。

2004年に公開された映画『タカダワタル的』(右上)。デビュー35年を迎える高田渡の活動や日常を追ったドキュメンタリー

岩田由記夫(いわた・ゆきお)

1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。

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