国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。忌野清志郎(1951~2009年)の第4回は、いつものように、筆者おススメの曲をピックアップ。悩みに悩んだ“極私的”な3曲を、清志郎本人のコメントを交えながら紹介します。
古いR&RやR&Bを愛していた
忌野清志郎は優れた音楽家であると同時に良きリスナーでもあった。1951年生まれの清志郎はザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズなどのデビューをリアルタイムで聴けた世代だった。当時の音楽好きは幼い頃にまず歌謡曲をラジオで聴き、やがて洋楽の洗礼を受ける。そしてザ・ビートルズなどに夢中になるが、その内、ザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズなどのルーツを探るようになる。
そうして原初のR&RやR&Bの虜になってゆくパターンのファンが多かった。清志郎もそんなひとりで特に古いR&RやR&Bを愛していた。彼の楽曲にもそういった古いR&RやR&Bの影響を受けた曲が多い。
1980年代中期、ミュージシャンが普段聴いている名曲をFMラジオで紹介してもらうという特別番組を企画・構成したことがある。忌野清志郎や桑田佳祐などにDJをしてもらった。清志郎が選んだのはまずはアーサー・コンレイの「スウィート・ソウル・ミュージック」でスタートし、後はすべて1950~60年代のR&BとR&Rばかりだった。
「雨あがりの夜空に」 “セックスの歌じゃありません”(清志郎談)
そんな忌野清志郎の数ある楽曲の中から3曲を選ぶのは難しい。これから紹介するのは極私的選曲と思っていただきたい。まずは日本のロックのスタンダードと言える「雨あがりの夜空に」。1980年1月にシングルとして発売された。歌詞はせっかく雨があがって愛車を走らせようと思ったのに、車の調子が悪いというのがざっとした内容だ。しかし、その詞にはあきらかにダブル・ミーニングが内在し、それはセックスを連想させる。そのことを曲が発売された翌年、清志郎に訊いたことがある。
“そうだよ。セックスの歌なんだよ。って言うか、セックスの歌じゃありません。どこにもセックスのこと、言ってないじゃん。岩田クンがスケベな人だから、セックスのことなんか思い浮かべるだけ。でも、曲がオレの手を放れて暴走しても、それを聴く人の勝手でオレがつべこべ言う筋合いじゃない”と、不適な笑いでかわされてしまった。