人生を変えたスパイスカレーとの出合い
全国的にスパイスカレーの勢いがすごい。そして、福岡もその例外ではない。いや、むしろカレー激戦区らしい。
ここ10年ほどで、個性あふれるスパイスカレーの専門店がどんどん増殖中だ。その中の1店『クボカリー』は、2015年に福岡市南区大楠、2018年に大名にオープンした人気店だ。時間によっては行列ができ、カレー好きから支持を集めている。
『クボカリー』店主の久保正三さんは、ちょっと変わった経歴の持ち主だ。もともと料理人ではなく、国土交通省関連の橋梁及び土木構造物の設計士という堅い仕事だった。
「料理は生活のために毎日作っていたし、好きでした。でも、設計士という仕事も好きだったし、やりがいも感じていたから、料理を仕事にする気はありませんでした」と、久保さんは言う。
しかし、はじめてスパイスカレーを口にした時、衝撃を受けた。「作ってみたい」。食べ歩き、いろいろ調べ、自分でも作ってみた。でも、それはあくまでも趣味だった。スパイスは奥が深かった。難しく、それでも、楽しくもあった。何人かのプロに教えてもらって作り、食べてみてもらったりもした。
それでも、プロになる気はなかった。時折、知り合いの店のイベントなどに誘われて、オリジナルのスパイスカレー店を出店。その味の評判が広まって、イベント会社からも声がかかるようになった。実は、「クボカリー」という店名は、このころのもの。とりあえずつけた名前をそのまま使っている。
そうして、イベントなどでカレーを振る舞っているうちに、客から「美味しい」と言われることにシンプルな喜びを感じたのだとか。「食べてもらって、返ってくる反応がうれしくて」。このころから、仕事にできたらいいのかなと思い始めたそうだ。
仕事を辞め、ようやく店をオープンしたものの、久保さんは開店1ヵ月目にして2ヵ月も入院することになった。この経験は、久保さんが健康について真摯に向き合うきっかけとなった。「口に入れるものは、美味しいだけではいけない、バランスのとれた体にいいカレーを作りたいと考えるようになりました」。その考えから『クボカリー』の看板メニューともいえる「クボカリープレート」が生まれることになる。
カレーは合いがけ、その周りには様々な野菜の副菜が盛り込まれ、味、栄養価ともバランスのとれたひと皿に仕上がっている。
チキンカレー、鶏軟骨ネギ炙りキーマ、サンバルと全く個性の違う3種のカリーと、ニンジンや紫キャベツなど、スパイスは利いているがあっさりした副菜は、それぞれ食べても美味しいが、混ぜると、また新しい味が生まれる。残さず食べて、お腹いっぱいになっても不思議ともたれない。気持ちのいいメニューだった。