銀メダリストのエネルギーは、育った練習場で生まれた。2021年、東京オリンピックゴルフ競技で日本ゴルフ界初のメダル獲得を成し遂げ、女子ゴルフツアーでは初の賞金女王となった稲見萌寧(もね)さん。10歳でゴルフを始め、11歳の頃から通っている練習場での食事が、今も彼女を支えている。
北谷津ゴルフガーデンは、生活の大半を過ごす場所
北谷津(きたやつ)ゴルフガーデン。千葉市にある230ヤード練習場と、18ホールのショートコースを備えたここが、稲見の原点だ。ゴルフを始めて間もない頃、この環境を求めて東京から転居。球を打ち込み、仲間たちとショートコースで勝負をしながら、腕を磨いて頂点に上り詰めた。
遠征で留守にしていない時は、毎日必ず通う練習場。そこは、食事も含めて生活の大半を過ごす場所でもある。北谷津ゴルフガーデンの土屋大陸社長が、薫り高いコーヒーをドリップで淹れてくれながら、昔を振り返る。「5年生の頃から来てるんですけど最初の1年ちょっとはお弁当持参でした。それが、ご飯2合のドカベン(笑)。(休みなどで1日いる時には)それを朝、全部食べちゃってた」。とんでもない食欲に思えるが、成長期真っ盛りで練習量も多く、いくら食べても足りない時期だったろう。こうして体が作られた。
当時の北谷津にはコーヒーとトースト、ケーキを出すカフェ的なものはあったが、元気な子供たちのおなかを満たすものは出していなかった。だが、毎日、よく食べてよく練習する稲見の姿を見て、社長の心が動いた。「どんなものが好き?」と尋ね、食事を出すようになる。
「最初は納豆が好き、と言うので朝食を作りました。納豆と海苔、生卵。それにご飯とみそ汁。確かに(食事を出すようになったのは)萌寧が引き金でしたね。おいしそうに残さず食べていた。ほかの子も食べ始めて、だんだんメニューが増えていったんです」