「かって物」にはユッケジャンスープも
うちのメニューには、「かって物」というのがあります。お客様に「生もの以外になにかないか?」と聞かれて作るようになりましたが、ようするに、日々の食事としてお勝手で自分たちが好きで食べていたものです。
飽きもせずに60年もこの稼業をやってきたんですから、料理自体が大好きです。作るものは、フレンチ、イタリアン、中華、韓国……なんでもありです。寿司以外はやらねえなんてこだわりもありませんから、お客様が喜ぶんならどんなものでも作ります。
先日も、韓国風のユッケジャンスープをお出ししたら、「寿司屋でこんな辛いものを」と最初は顔をしかめていたお客さんが、ひと口つけたら「旨い旨い」と平らげてしまいました。こういうときは、してやったりという気分になりますね。
伝統を守るのは大切なこと。同時に、新しいことにチャレンジしていかなければ未来はありません。自ら伝統をつくり出す――これもまた職人の醍醐味だからです。
そのために……といってはこじつけのように聞こえるかもしれませんが、こだわらないことにこだわりたい。自分の親方に教わった基本を忘れずに、自分の舌を信じ、自分が美味いと思ったものをこだわりなく作り続けていこうと心に刻んでおります。
(本文は、2012年6月15日刊『寿司屋の親父のひとり言』(講談社ビーシー)に加筆修正したものです)
すし 三ツ木
住所:東京都江東区富岡1‐13‐13
電話:03‐3641‐2863
営業時間:11:30~13:30、17:00~22:00
定休日:第3日曜日、月曜日
交通:地下鉄東西線門前仲町駅1番出口から徒歩1分