振舞料理(ふれまいりょうり)
儀式・催事後に僧によって僧のために振る舞われる宴席料理
僧が僧に振る舞う宴席料理は、もてなす側にも、もてなされる側にも厳格な作法がある。そこに込められているのは、食に感謝する心である。
本膳 左下から時計回りに、出飯(さば)、漬物、平椀、向皿、中猪口、汁椀
朝・昼の食事の際には、自分の食事から飯粒を取り分け、神仏に供える生飯を供する。本膳、二の膳のほかに焼物、蒸物、煮物などの追鉢(おいばち)や、大平(おおびら)という麺料理が振る舞われる。
二の膳 左下から時計回りに、笋羹(しゅんかん)、盛干(もりほし)、鉢
笋羹は旬の野菜、乾物、生麩類を使った炊き合わせ、盛干は旬の果物、大きな菓子と寿司などを盛り合わせたものである。
同時に配膳する本膳と二の膳は、本膳を少し前へ、前後にずらして並べる。
ねぎらいの心を込めて振る舞われる斎食(さいじき)
高野山には、儀式や催事の際に主催する寺院が参列の僧をもてなす振舞(ふれまい)料理というものがある。
振舞料理はすべて本膳料理形式であり、一汁三菜、二汁五菜、二汁七菜などの膳組で構成される。振る舞う側と振る舞われる側それぞれに、給仕の立ち居振る舞いから箸の進め方に至るまでさまざまな作法があり、食事そのものが精進であることを知る。
その場で食べる料理と、笋羹(しゅんかん)、盛干(もりほし)というみやげとして持ち帰る料理があるのも特徴で、本膳と水物、麺類のみを食し、その他の料理は自院に持ち帰るのが基本である。
また、いつ頃からかは分からないが高野山では、参詣登山する身分の高い人たちへのもてなし方の手引きのようなものがつくられ、高野山の山上山下の公事(くじ)などを行い、法務・俗務すべてに関知した年預(ねんにょ)や年預代(ねんにょだい)という役職者の間でその手順が申し送りされていた。
その献立表には岩茸、蓼(たで)、慈姑(くわい)、揚麩、蓮根、干瓢(かんぴょう)、栗、牛蒡(ごぼう)、羊羹、蜜柑などの品が見れ、旬の食材や特産品が取り入れられていることが分かる。
そこには、現代の宿坊で味わうことのできる精進料理につながるもてなしの心が感じられる。
法印以上の高僧のみが使う金剛峯寺の朱(あか)膳
茶碗は朱塗天目台付き。大平椀は麺料理用の椀。湯桶には飲み物(焼きおにぎりにお湯を注いで塩で味を調えた“湯の子”や日本酒)を入れる。
鮪の刺身は赤豆腐、卵は御所車など、仏教には食に関する隠語が存在し、酒を意味する隠語として般若湯がある。
キリスト教でワインは血を意味し、儀礼や儀式にも使用されている。また日本の神道には酒の神がおり、神棚にはお神酒(みき)を供える。
一方、仏教では、禅宗寺院の山門で「不許葷酒(くんしゅ)入山門」─葷(香りの強い野菜)と酒が山門に入ることを許さずと刻まれた石碑を見ることもあり、殺生や盗みを禁じた仏教五戒でも“不飲酒戒”として、そもそも酒を禁じている。
ただしこれは、飲酒の行為そのものではなく、泥酔による他の戒律の侵犯を危惧して律したものという解釈がある。それでも大っぴらに飲むのは気が引ける─般若湯という隠語はそんな思いが生み出したのかもしれない。般若は梵語で智慧を意味し、酒は真理へ導く薬であるとも考えられる。
空海は『御遺告(ごゆいごう)』の中で、塩とともに酒を飲む塩酒(おんしゅ)について触れており、「酒は病を治す薬で、とりわけ風邪の特効薬である。治療のための塩酒を許す」としている。
厳寒の高野山では、寒さをしのぐ意味から、梅干や塩を入れて飲む習慣もあった。
麩というと焼き麩が一般的だが、高野山では昔から生麩のみを製造している。
小麦粉を水で練り、成形してゆでるだけという生麩は、もっちりとした独特の食感があり、煮てよし、揚げてよし、色をつければ彩りにもよしと、高野山の精進料理に欠かせない食材である。
生麩で小豆餡をくるんだ麩まんじゅう(あんぷ)はもともと、汁物に入れたり、煮物にしたりして食べるものであったが、現在ではよもぎを練り込んだ生麩で小豆餡をくるみ、それを笹で巻いた笹巻あんぷという、そのまま食べられるものもある。
高野山の笹巻あんぷは、山のみやげとしても人気だ。
『高野山インサイトガイド 高野山を知る108のキーワード』
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