寿司屋から消えてしまったもの
寿司屋の世界でも、消えていきつつあるものがあります。
まずは「付け台」。当店では黒塗りの付け台に寿司を出していますが、今は寿司下駄やお皿に出す店が多くなっています。
それから、「岡持ち」。出前のときに寿司を運んだ箱のことですが、今は出前自体がほとんどありませんから、置いてある寿司屋も少ないでしょうね。寿司屋でも電子炊飯ジャーが当たり前の時代になって、炊いたシャリを入れておく「お櫃(ひつ)」と、それを保温する藁でできた「いずみ」もあまり見られなくなってきました。当店ではまだ使っていますが、「いずみ」を作っているところが減ってきて、今使っているのが壊れたら手に入るのか、少々不安ではあります。ネタをネタ箱の中に置くときに敷いた「ぎんす」(銀簾〈ぎんすだれ〉。細いガラスを簾のように編んだもの)も見なくなりました。当店でももう使っていません。
時が移ろえば、消えていくものがあるのは世の常。仕方のないことなのかもしれませんが、残ってほしいものもあります。「お櫃」や「いずみ」が消えてしまえば、ホントに困ります。シャリを入れておけば、お櫃は木製ですから適度に飯の水分を吸ってくれる。これはジャーにはマネできません。
旨かったのに消えてしまったネタ
ネタでも、白身で旨かった「メダイ」「オゴダイ」「カジキマグロ」といった魚は使わなくなりましたね。特に「カジキマグロ」は夏が旬で、トロは最高に旨かったんですけどね。河岸でもほとんど見なくなりました。
一方で、昔は東京では握らなかったのに、今は普通に供されているネタは圧倒的に増えました。昭和41、42年頃に、日本海の甘海老や北海道のほっき貝が入ってきたときのことはよく覚えています。ほかにも、のどくろ(あかむつ)やきんめ。輸送網が発達しただけじゃなくて、深海の魚の獲り方が進歩したからでしょうね。たくさん獲れるから、産地以外にも出回るようになったんでしょう。
旨いものが食べられるようになったんだから、時が移るのも悪いことばかりじゃない。私もせいぜい、「超ヤバ~い」を連発してもらえるように、丹精こめて握らせていただきます。
(本文は、2012年6月15日刊『寿司屋の親父のひとり言』に加筆修正したものです)
すし 三ツ木
住所:東京都江東区富岡1‐13‐13
電話:03‐3641‐2863
営業時間:11時半~13時半、17時~22時
定休日:第3日曜日、月曜日
交通:東西線門前仲町駅1番出口から徒歩1分