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東京の下町・門前仲町の『すし三ツ木』店主・三ツ木新吉さんは、2022年で74歳。中学入学と同時に稼業の寿司屋を手伝い始め、板前稼業もかれこれ60年。日本が大阪万国博覧会で沸いていた昭和45(1970)年に、深川不動尊の参道に開店した店は52周年を迎える。昭和の名店と謳われた京橋与志乃の吉祥寺店で厳しく仕込まれた腕は確かだが、親父さんのモットーは気取らないことと下町値段の明朗会計。昔ながらの江戸弁の洒脱な会話が楽しみで店を訪れる常連も多い。そんな親父さんが、寿司の歴史、昭和の板前修業のあれこれから、ネタの旬など、江戸前寿司の楽しみ方を縦横無尽に語りつくします。第18回は、ネタ選びの秘訣について。値段の高い高級寿司店が美味いのは当たり前ですが、リーズナブルな回転寿しで美味しいネタを選べれば、モテること請け合いというお話。

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「回転寿司で美味しいネタを選ぶ」

知ったかぶりするヤツはモテない

それにしても何ですね、女心ってものがわからない男は嫌ですね。ふた言目には「やらせろ」だの「ホテルに行こう」だなんて、ほかに口説き文句がないのかってツッコミを入れたくなるのが多くて呆れます。

もちろんそんな輩は「おととい来やがれ」ってなもんで店の敷居はまたいでほしくないですね。その一方で、“婚活”だなんて不思議なことが流行っているというのだから世の中わけがわかりません。

モテない男の条件というのは昔から決まっていて、「ケチ」「威張る」「スケベ」なんです。とくにスケベな男はいただけません。もちろん、どんな男にも“下心”はありますから、それが悪いといっているわけじゃない。ただ、相手の気持ちも考えず、下心をむき出しにすれば、女性に嫌われるのは当然です。

女を口説こうと思ったら、下心はグッと胸に秘めてとにかく褒めることです。誰だって褒められたら悪い気持ちはしません。

「今日の髪は似合ってるね」

「おっ、いい色の服だね」

何でもいいんです。褒めるところがなかったら、「今日の天気がいいのはお前のおかげだ」でもいい。ま、私なんぞは「てえしたもんだよ、蛙の小便。見上げたもんだよ、屋根屋のふんどし」とでも言うところでしょう。いずれにしても、全身全霊、心を込めて褒めるのが口説きの極意ってもんです。

もうひとつ大事なのは、褒めるのは本人だけじゃないということ。たとえば、クラブやキャバレーに行ったとしましょう。その店には本命の女の子がいて、横にヘルプの子がついたりします。そこで男の取るべき最良の行動は、へルプの子を褒め倒すこと。ヘルプの子に好かれたら“志”はほぼ達したといっていいでしょう。

人間誰でも、人を評価するときに一番影響されるのは近くにいる友人の声です。ヘルプの子が「○○さんて、優しくて楽しい人ね」と本命の子に言えば、知らないところでポイントは急上昇していること請け合いです。

ようするに、謙虚な気持ちが一番なんですね。威張ったり、知ったかぶりしたりしている男なんて、古今東西、女にモテたためしがない。だから寿司屋で板前の符牒や隠語をしたり顔で使うのはいただけないわけです。

とはいえ、隠語は面白いものですから知っていて損はないでしょう。

たとえば数の数え方。音楽業界のほうじゃあドイツ語のドレミを使うそうで、「1」は「ツェー(C=ド)」、「2」は「デー(D=レ)」で。1万2000円は「ツェー万デー千」なんて具合だとか。

板前の世界にも独特の言い回しがあります。「1=ピン」「2=リャン」「3=ゲタ」……下駄には穴が三つあるからですね。「4=ダリ」「5=メノジ、ガレン」「6=ロンジ」「7=セイナン」「8=バンド」「9=キワ」「10=ソク、ピン」。

十の位は多少の変化はありますが、基本的には「ソク+一の位の数え方」になります。「11」から順に、「ピンゾロ」「チョンブリ」「ソッキリ」「ソクダリ」「アーノ」「ソクロン」「ソクセイ」「ソクバン」「ソッキワ」と来て、「20」は「リャンコ」。「105」なんていうのは「ピンコロガレン」になるので、たとえば寿司屋で「お二人様、おあいそ『ピンコロリャン』ね」といったら1万200円と察しがつく。寿司屋で客が使うのはご法度ですが、気の合った友だち同士で使うのは楽しいかもしれません。

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