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「寿司を食うのに作法はあるのか?」

「おきまり」の並にこそ店のレベルが出る

学校を出て自分で稼げるようになって、ちょいと無理して旨いものを食いに行く。今どきの若者ならイタリアンやらフレンチかと思いきや、意外にも、町の寿司屋のカウンターで食べてみたいなんて方も多いそうです。

実際、当店にも、まだ着なれていないスーツ姿の若いサラリーマンが妙に緊張した様子で入ってくることがあります。

聞いてみると、どうやら初めて寿司屋に入って、作法をはずしてみっともないことを言ったりしたりしやしないかとビクビクしていたようなんです。

でもね、私はこの世界に入って五十年、鮨の正しい食べ方とか作法といった書きものを見たことはありません。必要以上に怖がらずに、「アズ ユー ライク」、お好きなものをお好きなだけ、好きなように食べていけばいいと思いますよ。

町の寿司屋で寿司を注文する場合、三通りのやり方があります。

まず、「おまかせ」。これは、板前がその日のネタの中からこれと思ったものを順番にお出しします。

次が「おこのみ」。お客さんに食べたいネタを言っていただき、それを握っていきます。

そして、「おきまり」。これは、だいたいどの店でも上、中、並とありますが、上だから旨くて並はそうでもないなんてことはなくて、味はどれも同じです。ただ、ネタによって値段が違うだけで、上には仕入れ値が高いネタが入ってきます。

町の寿司屋に慣れていない方に板前としてアドバイスするとすれば、まず、「おきまり」の中からどれかを選んで、食べ終わったら好みのネタを二つか三つ注文するのがいいのではないでしょうか。

並を頼んだらバカにされるんじゃないかと心配する方もいるようですが、それは大間違い。私はお客さんを上、中、並で差別したことなんて一度もないし、もしそんな店があったら、最低の店ですから次からは行くのをやめた方がいい。

逆にいえば、「おきまり」の並にこそ、その店のレベルが出ます。並を食べて旨かったら、そこは間違いない店です。

同じネタを続けて頼んでも大丈夫

それで慣れたら、予算に合わせて「おこのみ」で頼んでみる。このときによく聞くのが、「回転寿司では好きなネタを好きなだけ食べられるのに、寿司屋のカウンターで同じネタを続けて頼んだら怒られた」なんて話です。

これもおかしな話だと思います。同じネタを続けて頼むのは旨かったからでしょうし、ネタがなくなるのは余って困るよりよっぽどいい。怒るなんてとんでもない。その日の仕入れがなくなって、翌日は新鮮なネタが使えるんだからうれしいくらいです。

次のお客さんに注文をいただいたときになくなっていれば、「すみません。終わっちゃったんです」とあやまればいいことですからね。

頼み方としては、当たり障りのないところでは、自分はこれとこれが苦手だけど、今の旬はなんですかと聞かれるとよろしいかも。

たまに、「今日はこれが美味しいです」と切り出したら、「おい、親父。それは残りものか」と言うお客さんもいらっしゃる。どこにも意地悪な方はいるもので、こちらとしても難しい。

板前にも好みはありまして、私は割合、光りものとか白身が好きなので勧めちゃうことが多いですね。悩んだら、嫌いなものを伝えてあとは板前に任せれば、その店の旨いものは味わえると思いますよ。 

それから、「握りを小さくしてください」と言う方がいらっしゃいますが、まず、最初の握りを見てから言われた方がいいかも。店によって握りのサイズは違います。当店ではわりと小さめですので、「小さく」と言われるとだいぶ小さくなってしまいます。

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おとなの週末Web編集部 今井
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