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はしゃぐ作家とうなだれる編集者

まったく予想だにせぬ出来事であった。まあ聞いてくれ。

過日、「フライデー」グラビア取材班とともに北京・西安を巡った。この旅は同時に「小説現代」連載中の『蒼穹の昴第2部・珍妃の井戸』の取材も兼ねている。したがって文芸担当者の彼も一行に加わった。

2日目、万里の長城から韃靼(だったん)族の故地、満洲を眺めようということになり、マイクロバスを仕立てて北へと向かった。この間、私はもちろん取材に没頭していた。メモを取り続け、写真を撮り続け、よもや件の彼がこんなところで大変なことになろうとは、夢にも思ってはいなかった。

バスは河北の原野をひた走り、徐々に高度を増して行った。そのうち、彼が次第に無口になった。

「けっこう高い所にあるんですね~~、意外だな~~」

とか言った。やがて切り立った山稜に、あこがれの長城が見えた。もとより高所愛好者である私は、思いもよらぬ雄大な景観に快哉の声を上げた。

「おおっ! これはすごい。胸がワクワクする。どうだ、見てみろ!」

「……ははァ……すごいですねえ~~、胸がワクワクしますねえ~~」

「ン? どうした。車に酔ったんか。顔色が悪いけど」

「いえ。べつに……」

車はやがて混雑する観光ルートをはずれ、山間を分け入るようにして、ちっぽけな入場口の前で止まった。ガイドの説明によれば、この先にはロープウェーもあるが、どうせだから歩いて登りましょう、それの方がいい写真も撮れるし。

高所愛好症、ならびに世にも珍しき体育会系作家である私は、キャッキャッとはしゃいで胸をつくほどの石段を駆け上がった。

見上げれば万里の長城は、まるで大空に架け渡された階(きざはし)のごとく、峻険(しゅんけん)に、はるかに続いていた。

「おーい、何してるんだよー! 早くこいよー。すっげえぞー、うわァ、クラクラする」

フト見ると、石段の下で編集者がうなだれている。思えばそのとき、彼の内なる絶望感と恐怖とを、斟酌(しんしやく)しなかった私は愚かであった。私は彼が車に酔ったか、もしくは二日酔のため気分でも悪いのであろうと考えた。

「さあ、行くよー! ヤッ、ホー! うわ、こえー、おっかねー、キンタマちぢむー!」

とかはしゃぎながら、私は編集者を石段の上に引きずり上げ、ワッセワッセとその尻を押した。

「……あの、浅田さん。じ、自分で歩きますから……押さ、押さないでェ~~」

「遠慮するな。『蒼穹の昴』、よく頑張ったよなー、感謝するよ。ほら、見てみろ。この青空、これこそが俺たちの夢見た、中原の大空だ」

「は~。そ~ですね~。おっきいですね~~きれいですね~~」

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万里の長城の櫓は修羅場と化した!?...
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おとなの週末Web編集部 今井
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