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純粋な白米が出るのは正月3が日だけ

「臭いメシ」。塀の中の食事を昔から、そう呼ぶ隠語がある。服役して来たことを、「臭いメシを食って来た」と表現することもあったくらいだ。

現在では「臭い」という程では決してないのが、実情のようだ。ただし米は100%白米ではなく、前の取材によると「古々米5割、古米2割、麦3割の配合」と聞いた。だから「お世辞にも美味いものではなかったと思うが、それでも中では美味しく感じた」と。

後藤氏に確認してみると、
「あぁ、それはその通りです。割合もそんなものだったと思いますよ。古米と麦飯だけど、美味かったですね」とのことだった。「麦飯って独特の味があるじゃないですか。だから付け合わせなんかなくたって、食べれる。実は塀の中では、純粋な白米が出るのは正月3が日だけなんです。だから入った最初は、正月が来るのを楽しみにしてた。でもいざ食べてみたら、白米だけってあっさりし過ぎなんですね。なんだ、こんなもんか、って拍子抜けした感じ。これなら普段の飯の方がいいじゃん、って。おかげで今でも、麦飯が好きになっちゃいましたよ」

メニューは豊富だが量は決められているし、間食は一切できるわけがない。だから自然、出されたものは全て食べるし、残すことなんてあり得ない。「どんだけ好き嫌いのある奴だって塀の中に入れば何でも食べるようになる」と聞いていた。

「僕は元々、好き嫌いはなかったですが、とにかく完食は当たり前でしたね。腹一杯になることなんて、ない。常に腹7〜8分目くらい。また少年刑務所は、運動の時間にムチャクチャ運動させられるから、とにかく腹が減っている。満腹なんてなることは絶対ないんです。逆に、空腹で夜寝られなかった、なんてことはザラでしたよ」

後藤祐樹さん

“刑務所ダイエット”の効果

後藤氏は今、体重は平均66キロ。だが刑務所の中にいた時は、ずっと56キロだったという。少刑では運動の時間、ずっと走らされるからカロリーの消耗は激しい。なのに食事の量は、それに見合うものでは決してなかったようだ。

ただ満足感はさておき、腹8分目の食事は健康にいい、とされる。麦飯だって身体にいい。また、味付けも必要最小限で、塩分は控えめ。栄養士も専属の人がちゃんといて、きちんとカロリー計算された料理が供される。

前に取材した一人は、ずっと糖尿病で悩んでいたが、中に入るとみるみる血糖値が下がり、「病気が治ってしまった」と言っていた。

「だから糖尿病の治療なんて、簡単なんです。刑務所と同じものを食べさせればいい。『刑務所ダイエット』なんていい本になると思いますよ」

後藤氏も、「ある意味、精進料理みたいなものばかり食べさせられるわけですから(笑)。刑務所メシで糖尿病が治った、ってあってもおかしくはないと思います」との意見だった。

かつての「臭いメシ」が実は、健康にいい。そのことだけは間違いがないようだ。

文/西村健

後藤祐樹
ごとう・ゆうき。1986年、東京都江戸川区生まれ。1歳上の姉は、元『モーニング娘。』の後藤真希(通称・ゴマキ)。99年に13歳でスカウトされ、2000年にソニンと組んでダンスボーカルユニット『EE JUMP』のメンバーとして歌手デビュー。01年に発売した「おっととっと夏だぜ!」がスマッシュヒット。未成年でキャバクラに通っていたことが報道されるなどして02年に芸能界を引退した。とび職をするなどして働いていたが、07年10月に銅線の窃盗容疑で逮捕され、12月には強盗傷害で再逮捕、翌08年5月に懲役5年6月の実刑判決を言い渡された。その後、川越少年刑務所に収監され、12年10月に仮釈放で出所。15年に現在の妻の千鶴さんと結婚し、義父のダクトを扱う会社を手伝うほか、YouTubeなどで活動している。22年1月からは芸能事務所「エクセリング」に所属。

西村健
にしむら・けん。1965年、福岡県大牟田市生まれ。東京大学工学部卒。労働省(現・厚生労働省)に勤務後、フリーライターに。96年に作家デビュー。2021年で作家生活25周年を迎えた。05年『劫火』、10年『残火』で日本冒険小説協会大賞。11年、地元の炭鉱の町・大牟田を舞台にした『地の底のヤマ』で日本冒険小説協会大賞を受賞し、12年には同作で吉川英治文学新人賞。14年には『ヤマの疾風』で大藪春彦賞に輝いた。他の著書に『バスを待つ男』『目撃』、雑誌記者としての自身の経験が生んだ長編『激震』など。

【後藤祐樹さん著書紹介】
『アウトローの哲学(ルール) レールのない人生のあがき方』(講談社ビーシー/講談社、1650円)。15歳でアイドルとして人気絶頂を極めた男が見た、奈落の底。朝倉未来とも闘い、ユーチューバーとしても活躍する後藤祐樹の波乱万丈の人生を描く。彼の生き方は、無難にしか生きられない我々に教訓と指針のヒントを与えてくれている。「いき詰まったら、読んで欲しい」一冊。

『アウトローの哲学 レールのない人生のあがき方』(講談社ビーシー/講談社、1650円)
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