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新型コロナウイルスの第7波はようやくピークアウトの兆しを見せていますが、気温の低下とともに、新たな感染の波やインフルエンザの流行も心配されます。「マスク、ワクチン」といった予防策も定着していますが、根本的にはやはり、自分自身の免疫力を高めておくこと。そんななかで、野菜の力がこれまで以上に期待されています。なかでも「野菜スープ」、とりわけ「野菜は生で食べるな」という主張に注目が集まっています。
※本記事は奥野修司『野菜は「生」で食べてはいけない』(講談社ビーシー/講談社)の一部を抜粋し再編集したものです。

ウイルスによる炎症は「活性酸素」が細胞を傷つけて起こる

新型コロナウイルスが蔓延するなかで、「最強の野菜スープ」ともいわれる野菜スープが話題になっている。考案したのは、抗がん剤の世界的権威でノーベル賞候補ともいわれた故・前田浩先生(熊本大学名誉教授)だ。もともとがん予防のために生まれたスープだが、免疫力を上げるので新型コロナにも効果が考えられるという。

ワクチンがあるとはいえ、見えないコロナウイルスに対して、三密を避ける、マスクをする、手洗いをするといった対策しか持ち合わせていない現在、本当に大切なのは、ウイルスに感染しない体をつくっておくことだろう。野菜スープがなぜそれに効果的なのか、前田教授は2021年5月に亡くなられたが、本稿はその1か月前にインタビューしたものである。

「私の専門は細菌学、微生物学、ウイルス学で、熊本大学ではインフルエンザの感染モデルの実験を行いました。マウスをインフルエンザウイルスに感染させると次々と死んでいきます。殺したのはウイルスに間違いないのですが、本当の犯人はウイルスなのだろうかと調べると、活性酸素だとわかりました。

白血球などがウイルスを殺そうとして機関銃で撃つように活性酸素を放出するので、正常な臓器の組織や細胞を傷つけてしまい全身で炎症が起きるのです。こうして世界で初めてウイルスによる発病のメカニズムを解明しました。

活性酸素を中和する物質が抗酸化物質です。これをマウスに投与すると活性酸素による炎症が治ります。がんは活性酸素がDNA(遺伝子)を傷害することが原因といわれていましたから、この抗酸化物質を予防に使えないかと考えました」

活性酸素を消す「抗酸化物質」。野菜から十分に吸収するには「加熱」が必要

「活性酸素を中和する酵素は人間も体内に持っていますが、病気がひどくなるとそれだけでは手に負えなくなります。それなら“援軍”として抗酸化物質を外から入れればいいと思い、何が最適かをスクリーニングしました。その結果、野菜や果物こそ最高の活性酸素消去物質とわかったのです。

特にいいのは緑の濃い野菜です。野菜というと、最近は西洋文化の影響で生野菜を食べたり、ジュースにしたりしますが、人間の胃は野菜の細胞壁を壊せないから抗酸化物質を十分に吸収できません。食べることと吸収されることは別なのです。つまり、抗酸化物質を吸収するには、加熱してスープで摂るのがベストなのです」

免疫力アップには「腸内細菌」が重要。有用なのが「野菜スープ」

――新型コロナの対策として免疫力向上はよくいわれますが、野菜スープはなぜ有用なのでしょうか。

「免疫力をアップさせるのは野菜に含まれる多糖類なんですね。食物繊維やでんぷん、セルロースなどの仲間の物質がそうです。多糖類を一滴入れるだけで血液中の白血球の一種であるマクロファージが元気になって、バクテリアを攻撃してくれます。多糖類にはそういう作用があるのです。

腸内細菌のなかでも善玉菌は多糖類が大好きです。免疫細胞の七割は腸にあって、特に善玉菌がそれを活性化しているのです。多糖類は腸内細菌を元気にすることで、間接的に体全体の免疫力をアップさせていると言えます」

野菜スープで免疫力を高めておけば、感染しても早い回復が期待できる

「ただし、多糖類を吸収するのにも加熱する必要があります。でんぷんを考えてください。粉末のでんぷん(片栗粉)を水に溶かそうと思っても溶けませんが、加熱して初めて水になじんできます。寒天もテングサもそうです。加熱しないと溶けないのです。溶けないと腸内細菌の栄養にはなりません。

私は野菜スープに、しいたけやまいたけなどのきのこを入れていますが、野菜スープで免疫力を高めておけば、たとえ新型コロナに感染しても、早い回復が期待できます」

野菜を小さく刻み煮込めば、生野菜より「10倍から100倍強い」抗酸化力に

――どのような野菜を摂ればよいのでしょうか。たとえば、先生は普段どんな野菜スープを摂っていますか。

「野菜スープは毎日飲んでいますが、だいたい10の野菜を入れます。包丁で小さく切って、30分から40分ほど煮れば、野菜の細胞壁が壊れて中から抗酸化物質などが溶け出てきます。スープにはビタミンCやK、葉酸、ミネラルなども豊富です。これらが活性酸素を消去する力は、生野菜をすり潰した汁よりも、10倍から100倍も強いのです。

ビタミンCなどが熱に弱いと心配される方もおられますが、野菜に含まれる抗酸化物質で安定化するため、加熱しても問題ありません」

野菜スープに入れるのは、たまねぎ、トマト、レタス、大根の葉……

「私の場合、スタンダードに入れるのは、たまねぎとトマト。そのほかにレタスとかクレソン、大根の葉、パセリなどで、無農薬だったらキャベツなどは外側の緑の濃いほうがいいと思います。ここは硬いので適当に切って油で炒め、スープに入れます。

たとえば、大根やにんじんでも、根っこの可食部よりも葉っぱのほうが抗酸化物質は多いのです。捨てるのはもったいないですね。大根やセロリを買ったときに、硬い緑色の濃い葉っぱがついていたら、オリーブオイルか菜種油で炒めるのです。これをスープに入れて煮込めば、すぐにやわらかくなって、旨味はワンランク上がります」

普段から抗酸化成分を摂り、ウイルス感染しにくい体をつくる

「普段から抗酸化成分を十分摂ることによって、ウイルスに感染しにくい体をつくっていくことが大切です。それは同時に、がんになりにくい体づくりにもつながります。また、トマトなども生で食べるより、油で炒めて食べると吸収率が4倍も高くなります。

トマトを加熱調理するとわかりますが、トマトの色が油に溶けてオレンジ色になっていますね。あれはトマトのリコペンが油の中に溶け出たからです。生で食べると吸収されにくいのですが、油で炒めると腸管からよく吸収されるのです」

前田教授の考えは、野菜スープがすべてではなく、野菜に含まれる抗酸化物質という“お宝”を無駄なく利用するには、「野菜は生で食べるな」というのが基本だった。つまり、野菜は煮て食べなさい、ということである。

大事なのは、煮た野菜を「食べ続けること」だという。そうなると、一般的な煮野菜となれば料理の方法なども考えねばならず、毎日食べ続けるには、やはり作り方が超簡単なほうがいい。それが野菜スープだったというわけである。

文・奥野修司 イラスト・なかじままり

おくのしゅうじ。ノンフィクション作家。1948年、大阪府に生まれる。立命館大学卒業後、1978年から日系移民調査。帰国後、フリージャーナリストとして活動。『ナツコ 沖縄密貿易の女王』(文藝春秋)で講談社ノンフィクション賞と大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。近年、『怖い中国食品、不気味なアメリカ食品』(講談社文庫)、『本当は危ない国産食品 「食」が「病」を引き起こす』(新潮新書)などを通じ、日本を取り巻く食事情と食環境に警鐘を鳴らし続けている。

新刊情報

『野菜は「生」で食べてはいけない』
奥野修司(著)講談社ビーシー/講談社

健康や美容のため、生野菜をたくさん食べ、野菜ジュースを日課とする人が大勢います。しかし実は、こうした生野菜の摂取は、健康効果の点からはまったくおすすめできません。むしろ、「野菜は生で食べるな」というのが基本。本書は、その理由と、「唯一の解決策」を追った健康ノンフィクションです。

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おとなの週末Web編集部
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