ホームでかき込む一杯に、飲んだ後の一杯。旅先で食べる麺は、なぜ強く印象に残るのか。あのほっこり、しみじみとする味わい。筆者の場合、その記憶はいつも鉄道の旅とある。あのホッとする味と、人々の笑顔に出会いに。今回はローカルな鉄道を乗り継いで、西九州をゆるり、ゆらゆらと旅してみた。2日目は長崎県たびら平戸口駅からスタートです。
路面電車に乗って麺と酒場をハシゴする夜
さて二日目の朝は早起き。7時過ぎに福岡市地下鉄空港線に乗って、佐賀県の唐津駅を目指す。途中、JR筑肥(ちくひ)線に乗り入れたあたりから、電車は玄界灘沿いを快走。唐津で乗り継いだら、筑肥線の西の終点、伊万里駅へと至る。
ここから、いよいよ単線の旅がスタート。一両編成の松浦鉄道で目指すのは、日本最西端の駅・たびら平戸口だ。
構内にカウンター形式のちゃんぽん店(座って食べれる)があるユニークな駅で、しかもそのちゃんぽん、なんと京都からの”逆輸入”の味だそうで⁉「うちは昔から平戸で民宿を経営していますが、娘が京都に進学するのと阪神・淡路大震災の時期が重なって。関西からの宿泊客が激減し、経済的窮地に陥りました」。
この時、山田壽壽子(すずこ)さんは夫を残し、娘とともに京都へ移住。一念発起して、なんと海鮮ちゃんぽんの店を開業した。「山田家のちゃんぽんは海鮮だしをしっかり利かせます。おまけにラードは不使用。このちゃんぽんならきっと、優しい味わい好きの京都人に受け入れられるはず。そう思って勝負に出ました」。
この賭けは大成功で、すぐさま京都の行列店の仲間入り。その後再び平戸に戻って、ここ『元祖海鮮ちゃんぽん平戸』を開業。澄んだ味わいのちゃんぽんは、地元の人の昼食としても人気だ。
この後、松浦鉄道で佐世保駅へ。JR大村線に乗り換えて、長崎駅に到着する。路面電車が走る街は、乗り鉄のパラダイス。その車より遅いスピードに身を委ね、オランダ坂近くの『椿屋』を目指す。
魚も肉も酒も、提供するのはほとんど長崎産。「練り物も日本一おいしいから、ぜひ」と、店主・下枝さんのわが街自慢は尽きない。〆はもちろん、五島うどん。喉越しのいい麺に上品なあごだしが香るから、たらふく食べて飲んでいても、するりと胃に収まってしまう。
外に出たら、まだ20時過ぎ。路面電車で、次はどの酒場に向かおうか。思案する時間も楽しい。