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写真を撮る側のことを考えた

私にとって、とても大きな意味を持つ、一枚の写真がある。

雪にまみれた、アザラシの赤ちゃん。私と小原は、人気のある何枚かの写真を符丁で呼んでいたが、その通称は「雪見大福」だった。小原の作品をよくご存知の方なら、ああ、あれか、と見当をつけてくださるかもしれない。吹雪の後、吹き付けた雪がそのままになっている。

「小原さんも、こんなふうになってたんですか?」

それはそれは大変だったでしょうね。私は、心に浮かんだ疑問を素直に口にしただけだった。後に彼から聞いたのは、写真を撮る側のことまで考えたのは私だけだったということだ。動物の写真を見て、撮る側のことを考える人なんて、そうそういない。このチャンスを逃したら、あとは一生独身だ(二回も離婚しときながら、即座に結婚に持ち込もうとしているところが只者ではない)。

今、YouTubeに同様の動画を上げると、多くの方がコメントをくださる。

「こんな吹雪の日は、カメラマンさんも大変でしょうね。お蔭様で、私達は可愛い赤ちゃんの映像を見ることができます」

結構、いろんな方が撮る側を思いやってくださってますよ、玲さん。あれは、実は逃してもいいチャンスだったんです。今となっては、焦ってくれてありがとう、ですが。

小原玲さん

我慢の効かない人間

自分が子どもを持つなんて、考えたこともなかった写真家は、三児に恵まれた。お風呂に入れて、おむつも替えて、歩けるようになったら、毎日、公園に行った。ママ友とも驚くほどナチュラルにお付き合いして、私はそれを天賦の才能と呼んだ。

彼は、東京が日本で一番偉い、と思っていて、私を説得して東京に移住しようと目論んでいたらしい。けれど、子どもが生まれて、それが一変した。彼は、子どもと沢山遊びたかった。名古屋という都市は、何もないとこ、みたいに言われることが多いが、もともと、子どもと楽しく過ごそうと思ったら、実に恵まれた土地である。海も山も湖も川も森も、ちょっと足を伸ばせばすぐに行ける。休日の朝ごはんを食べてから、どこに行こうか、と相談して出かけられる。小さい頃には、しょっちゅうキャンプにも行った。近所のお友達も誘って、年に何度も。

だけど、子どもは大きくなる。親の思う通りには育たない。

小原は、我慢の効かない人間だ。自分の思い通りにならないことには、とことん抗う。それは、相手が子どもであっても容赦がない。だから、子ども達とは大喧嘩もしたし、口を聞いてもらえなくなることもあった。どっちもどっちと言うより、それは明らかに玲さんが悪いわあ、というケースがほとんどだった。

家族の雰囲気が悪くなると、焼肉を食べに行く。何を注文するか相談して、同じ網で肉を焼くには、話し合わなければいけないから。

でも彼は、思い通りにならない我が子を心底愛していたから。

それを知っていて、子ども達は安心して反抗したのだと思う。

顔色を伺って、言うことを聞いていないと、見捨てられるなんて不安とは無縁で。

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