「さよなら」 “もう”という歌い出し、不安定なコード
極私的3曲の3曲目はオフコースの名を世に広めた1979年12月のシングル「さよなら」だ。この曲は冬の風景だ。冷たい雨がやがて雪となり、白い冬になる時期だ。そして雪が別れる恋人たちの心の中に降り積もる。
「さよなら」の歌詞だけでなく、この歌い出しの“もう”というところのコードに小田和正の作曲能力の高さをかつて感じた。
“もう”という歌い出しは“G6”というコードが使われている。メジャー・コードでもマイナー・コードでもない不安定なコードだ。その不安定さが“もう”という感情にぴったりと合っている。恐らく小田和正の頭の中では、“もう”という言葉と“G6”という不安定なコードが、同時に天から降りてきたのだろうとぼくは思う。
こんな不安定な歌い出し、コードで曲が作れたのは小田和正が、“不安定コードの神様、ザ・ビートルズ”をたっぷりと聴き込んで育ったからだと思う。ネット上の“さよなら”のギター譜では、“もう”の部分は“Em”が当てられていることが多いが、ぼくはこの部分は絶対に“G6”だと思っている。
「さよなら」は小田和正の強い決心の元に作られている。かつて、小田和正はぼくに「さよなら」について語ってくれた。
“とにかくシングル・ヒットが欲しかった。「さよなら」に関しては、ヒットさせようじゃなく、絶対にヒットさせると心に決めていたんだ。次のステップに行くには、俺たちには大ヒットが必要だったんだ”
「さよなら」はオフコースの通算17枚目のシングルで1979年12月1日~昭和54年冬にリリースされて大ヒットとなった。オフコースの長い冬に終わりを告げる名曲となった。
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。