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クリスマスを一変させた『クリスマス・キャロル』

アメリカ、カナダで感謝祭の伝統食であった七面鳥が、クリスマス料理にもなったのは、イギリスの小説『クリスマス・キャロル』の影響が大きいと言われています。

『クリスマス・キャロル』は、イギリスの作家チャールズ・ディケンズ(1812~70年)により執筆されました。1843年12月19日に出版されるや大ベストセラーとなり、約180年経った現在でも読み継がれ、何度も舞台化、映画化されている名作です。

主人公は強欲で周囲から忌み嫌われている初老の経営者スクルージ。クリスマス前日の晩に、かつての共同経営者ですでに亡くなっていたマーレ―が亡霊となって現われ、その後過去・現在・未来の世界を見せる3人の精霊が現われます。彼らとの出会いによってスクルージは改心し、慈悲にあふれた人間へと生まれ変わるというストーリーです。

当時の英国は、産業革命を経て、都市環境や労働環境の劣悪化、貧富の差の拡大、疫病の流行など、さまざまな問題が噴出していました。人々の心はすさみ、クリスマスを祝う経済的な余裕も心の余裕もなかったのです。ディケンズはそのような社会状況に危惧を抱き、『クリスマス・キャロル』を執筆しました。『クリスマス・キャロル』は発売後約1週間で6000部を売り上げ、その後クリスマスが過ぎ、年が明けても本の売れ行きは止まらなかったそうです。それだけではなく、改心したスクルージの姿に感銘を受け、自らも心を改めようとする者が続出しました。ブームは米国にまで飛び火し、クリスマス期間に全社員に対して特別休暇と七面鳥をプレゼントする経営者まで現われたといいます。こうして、『クリスマス・キャロル』発売後の数年間で、英国のクリスマスの様相は一変しました。英国中にクリスマス・ツリーがあふれるようになり、人々が他者に対して温かなまなざしを向ける季節となったといいます(参考[2])。

さて、小説の中で、改心したスクルージはクリスマスの朝、彼のもとで薄給で働いていたボブ・クラチットに、人間の子供ほどもある大きな七面鳥を贈ります。『クリスマス・キャロル』出版当時のヨーロッパでは、七面鳥は入手の困難さもあり、高価で、クリスマスに食べる習慣はありませんでした。クリスマス・ディナーとして食卓にのぼっていたのは、安めのガチョウだったと言います。しかし、七面鳥を食べる習慣のあった米国では、『クリスマス・キャロル』が大ヒットし、感謝祭だけでなくクリスマスにもディナーの主役を務めるようになりました。こうして米国でクリスマスに七面鳥を食べる風習が定着し、それが次第にほかの国々にも広まって行ったのです。

七面鳥は欧州でも高価だった
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日本ではなぜクリスマスにチキン?...
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圓岡太治
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