「ファイト!」 ミリオンセラーの名曲
極私的3曲の2曲目は「ファイト!」だ。発表されたのは1983年だが、ファンの間で人気が高く1994年に発表された31枚目のシングル、「空と君のあいだに」に両A面扱いでカップリングされた。ミリオンセラーとなり、中島みゆきのシングルでは最も売れた1枚となっている。
“あたし中卒やからね”から始まるオープニングは、歌というより語りかけるポエトリー・リーディングに近い。そういった、ある意味、社会的弱者に対して、中島みゆきは“ファイト!”と歌いかける。弱いが故に社会から逃げ出したくなる人々に対して、“私の敵は私です”と言い切る。
もし、この曲を松任谷由実や竹内まりやなどといったシンガー・ソングライターが歌ったとしても中島みゆきのような説得力は持てないだろう。“私の敵は私です”というフレーズの説得力は、中島みゆきならではのオリジナリティだ。
「地上の星」 NHK「プロジェクトX」テーマ曲
極私的3曲目はNHK「プロジェクトX」のオープニング・テーマとしてヒットした2000年発表の37枚目のシングル「地上の星」だ。大空に輝く星々でなく、地上という虚空に光る星にスポットライトを当てているのが素晴らしい。明るく輝く、誰でも知っている星ではないけれども、地上に無くてはならない星~人間を描き出したのが中島みゆきの表現力の高さだ。
この曲には市井の人々、庶民のひとりひとりを勇気付けている誇りのようなものが感じ取れる。それは中島みゆきというシンガー・ソングライターが、常に市井の人々と同じ目線で音楽を編み続けているからだ。中島みゆきも「地上の星」のひとつなのだ。
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。