紅茶に焙煎をかける「ほうじ紅茶」
さらに、山本さんは紅茶に焙煎をかけるという手法にもいち早く着手した。焙煎の熱によって茶葉の成分に変化を起こし、フルーティな香りや甘みを引き出そうというアイデアだ。それは『ほうじ紅茶』として世に出たが、今やこの“焙煎する”という手法も多くの生産者が行うようになっている。
紅茶の製法では、茶葉の水分を蒸発させる萎凋(いちょう)、葉の組織細胞を砕いて酸化発酵をうながす揉捻(じゅうねん)、そして発酵が行われる。摘んだ茶葉をすぐに蒸すなどして乾燥させるシンプルな緑茶の製法と比べると実に何倍もの手間がかかる。山本さんはそこに自分なりの工夫を加え、手順をより複雑にすることで最高の和紅茶を作りだそうと試みている。
和紅茶には中国茶のように豊かな香りがある。この香りをいかに引き出すかがキャラクターを決定するともいえる。一方で、外国の紅茶とは一線を画すのは渋みが少ない穏やかな味わい。「和紅茶の和は日本という意味だけでなく、やわらぎと言う意味もあると思うのです。飲むと気持ちを落ち着かせてくれる、日本人らしい飲み物ではないでしょうか」と山本さん。風土と人柄が生む和紅茶は造り手ごとに味が変わると言われる。その多様性こそが和紅茶最大の魅力。まさに日本人の手仕事が生んだ味なのだ。
【和紅茶の基礎知識1】国産紅茶=和紅茶
和紅茶は国産の茶葉を使って国内で作られた紅茶。日本ならではの味わいや香りに特徴がある。ここ10年でその数は飛躍的に増え、全国で500軒ほどの生産者が、約2000種類といわれる紅茶を作っている。近年、海外のコンテストでもメキメキと頭角を表し、上位の賞を獲得。そのクオリティは海外でも注目されている
【和紅茶の基礎知識2】品種もさまざま
代表品種は紅茶系の「べにふうき」、緑茶の在来種「やぶきた」。名前に“べに”が付くのは紅茶系品種、「さやまかおり」など“香り”が付くのは香り系緑茶品種だ。このほか日本ならではの緑茶品種も多い。春に摘んだ新芽はファーストフラッシュ、夏摘みはセカンドフラッシュ、秋に摘むオータムナルなどと明記されている
撮影/松田麻樹、取材/岡本ジュン
※2023年5月号発売時点の情報です。
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