想像以上に熱さに“風ちゃん”驚き!
興奮のあまり同じフレーズを連呼しながら風ちゃんは俺の方を見た。
「ところで、親方はどちらの湯から入ってみるつもりですか?」
「今、チラリと見たんだけど、俺は熱湯を飛ばして、体を湯に慣らしたいから新湯から入ろうかな。その後さぁ大湯、熱湯の順に入って、最後に奥にある井上靖ゆかりの湯(すなわち旧長谷旅館の湯)に入ろうかと思っているんだけど」
「ほう、そう来やすか。それなら拙は大湯から行きやしょう」
「まっ、とにかく湯に入ってみようよ」
「へい、待ってました」
入り口に近いところに熱湯があり、大湯と新湯は窓側に隣り合わせに造られている。そしてさらに奥が井上靖ゆかりの湯なのだ。
さぁとばかり、おのおの総ヒバ作りで二連浴槽の湯船にぽちゃ~りと入った。
「風ちゃんの方は大湯だから白濁していて、なんかほっこりしそうだね」
俺は風ちゃんに声をかけた。すると風ちゃん、浪花節を唄うみたいに低い声で答えたのだ。
「むむむっ、やや熱めの湯で思ったよりもサラリと細かい感じでありんす。しかし、いかにもすんなり入ったように思うでしょうが、親方! ちょいと熱いでやんすよ……くくくっ!!」
「こちらでややアツなら熱湯の方はどうなんでしょうか??」
やや泣きが入っている風ちゃん。
いっぽう江戸っ子を自称する俺の方は見栄を張りつつ「コチラだって熱さはそう変わらないと思うぞ」と、透明に近い湯の中に肩まで浸かってみたりして熱さに強いところを醸し出してみた。
そんなこんなで、しばらく熱めの湯に浸かっているとあら不思議。身体が慣れてきたのか意外に短時間で熱さを克服。人間の体ってすごい!!
「だけどこっちの新湯は酸性の濃度が高い印象かな。それと湯が身体を包みこむ感じがするのが不思議だよ。あぁ気持ちが良いよ」
「ほぅ~!!それじゃ拙も、そちらの新湯にゆらゆら入ってみましょうかね」
「おう、じゃ俺は大湯に」
ふたりして「どぽ~ん」
「う~む新湯、良い湯でござるな~」
「大湯も確かに良いね~! これはもう、どっちが良くてどっちが悪いとかではなくて完全に好みだね」
「そうでガスね。ただ、あっしの好みはやはり最初に入ったサラサラの大湯でございますな」
「ほぅ~、それをいうなら俺の好みは新湯の方かな、このやさしくまとわりつく感がたまらないよ」
そしてしばらく、津軽海峡を見ながら体を湯に慣らした俺たちは「親方、ゴクリ。そろそろ熱湯に繰り出しやしょうか!」という風ちゃんの恐ろしいような、恐ろしくないような掛け声をキッカケにして、ふたりして熱湯の浴槽にむかったのだ。