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ジャングルの奥深くに自生する謎の調味料

博士のおすすめ料理を要約すると、中にキャビアをくるんだ千鳥の卵のオムレツ、ということになる。

そして、この上になお念には念を入れて、熱帯の摩訶不思議な調味料をパラパラとふりかければ、その瞬発的な効き目たるや、ゆり椅子で鼻水たらして昼寝にふける枯れすすきみたいな老妻にとびかかるほどだというから、恐れ入る。

摩訶不思議な調味料の正体とは、西インド諸島のジャングルの奥深く、巨木の幹に寄生繁茂する〔バレバラス〕という名の、まるで悪事が露見した密告者みたいな名のこしょう科の木があって、その実を乾燥させて粉末にしたものだという。

味はこしょうのようにピリッとするだけで、とりたてて見事な芳香を放つというものでもないが、ひとたび腹中に収められると、相手かまわず手荒いイタズラをはじめるらしいのだ。

こやつは膀胱に到達したころから本領を発揮して、内壁をチクチク、ムズムズ、刺したりくすぐったり、排尿時にはこれを尿道でやるから、まるで水虫が皮膚の裏側にできたようなもので、くすぐったいやらムズ痒いやら、老若男女を問わず身体の内側がよじれる思いに頰が上気して、思わず知らず、口の端から熱く熟れた吐息をポッともらしてしまうらしいのだ。

博士の臨床実験によると、これのひと振りで1時間後ぐらいから顕著な効果が現われ、回春の兆しは半日も持続するというから、深くお悩みの向きは西インド諸島のジャングルまで足を伸ばしてみるだけの値打ちがあると思うのだが。

(本文は、昭和58年4月12日刊『美食・大食家びっくり事典』からの抜粋です)

『美食・大食家びっくり事典』夏坂健(講談社)

夏坂健

1936(昭和9)年、横浜市生まれ。2000(平成12)年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。その百科事典的ウンチクの広さと深さは通信社の特派員時代に培われたもの。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。

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おとなの週末Web編集部 今井
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