手当たり次第に集めた動物の睾丸
それはそれとして、アポリネールが38歳で早逝する晩年の数年間、真剣に取り組んだのが〔アニメル(睾丸)料理〕であった。
どこでどう手に入れたのか、オットセイ、鹿、ライオン、象、セイウチ、牛、豚……、アニメルでありさえすれば何でもいいような手当たり次第で、これをロースト、ボイル、グリル、ベイクド、ソテー、フライ、ムニエル、思いつくままに食べまくった。
象のは1個の直径が20センチを越えるそうだから、バレーボールに近い大きさである。アンドレ・サルモンと2人がかりでも食べきれるものではなかったはずだ。
造精器官を食べると造精器官に利くのかどうか、それは信じるか信じないかの問題だろうが、もしアポリネールが中年以降の用心に直接料理を試していたのだとしたら、それは無駄な努力に終わってしまった。
(本文は、昭和58年4月12日刊『美食・大食家びっくり事典』からの抜粋です)
夏坂健
1936(昭和9)年、横浜市生まれ。2000(平成12)年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。その百科事典的ウンチクの広さと深さは通信社の特派員時代に培われたもの。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。