木造長屋が連なる路地に今夜も人が集まってくる。馴染みの店へ足早に向かう人、カメラ片手に物珍しそうに店を覗く観光客、開け放された戸から聞こえる談笑の声……。そうした賑やかな灯りのひとつにゴールデン街最古の店『双葉』があった…
画像ギャラリー木造長屋が連なる路地に今夜も人が集まってくる。馴染みの店へ足早に向かう人、カメラ片手に物珍しそうに店を覗く観光客、開け放された戸から聞こえる談笑の声……。そうした賑やかな灯りのひとつにゴールデン街最古の店『双葉』があった。
「双葉は1948年に創業して今年で76年目になります。祖母、母から私が受け継ぎました」。初江さんが店に立ち始めたのは約16年前。しかし小学生の頃から店に出入りし、ゴールデン街や店の歴史を祖母や母から聞かされてきた。「ゴールデン街はもとは闇市だったんです」という初江さんの言葉通り、戦後にできた駅前の闇市がこの辺りに移ったことが横丁の始まりだ。
「地域を組合としてまとめあげゴールデン街にしたのは私の祖父たちでした。祖父がゴールデン街商業組合の初代会長として銀行や酒屋さんに話をつけて、お金を借りられるように、お酒を卸してもらえるようにしたんです。ゴールデン街という名前を祖父たちがつけたのもその頃ですね」。
そうしてスタートしたゴールデン街は、1970年代になると名だたる文化人が集う横丁となるが、その前の1960年頃は貧乏な学生や演劇人が多かったそう。「みんなお金がないんです。でも飲ませてあげたいでしょ?だから祖母たちは出世払いってことで飲ませてあげていたんです。お酒の飲み方も教えてあげてね。もちろんお金が入らないわけだから経営が苦しい時期はありました。
でもどの店のママも白い割烹着を着て『お腹が空いてる子を満腹にさせてあげたい』って。そういうことをしていたら、みんな名を挙げた時に『どうせなら世話になったお袋のところで金を使ってやろう』と店に来てくれて、母の時代に一気に街自体が盛り上がりました」。
劇団四季創設者の浅利慶太や作曲家の小林亜星は祖母の頃のお客だそう。こうした業界人の繋がりから美空ひばりなど時の人もゴールデン街に訪れるようになった。なんという人情だろう。そういえば以前隣り合ってちょっと話したお客さんが「ここは人が人を引き寄せるんだ」なんて言ってたけどまさにその通り。初江さんは「この建物がある限りは店を続ける」という。ゴールデン街の原点に今日も灯が灯る。
『双葉』
[住所]東京都新宿区歌舞伎町1-1-9
[電話]03-3200-0279
[営業時間]18時〜23時
[休日]日・月・火
撮影/小島昇、取材/藤沢緑彩
※2023年9月号発売時点の情報です。
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