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酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?父の志を受け継いだ、千葉県『藤平酒造』の3兄弟。役割分担をし、力を合わせることで、銘酒を造り上げた。その原動力となる晩酌はおふくろの味だった。

千葉県『藤平酒造』

【藤平典久氏】

『藤平酒造』の杜氏、藤平典久氏

1968年、千葉県生まれ。3兄弟の次男として生まれ、引退を希望する杜氏のあとを引き継ぎ、30歳で蔵人に。2000年に杜氏に就任。経理担当の長男・和也氏、社長で麹師の三男・淳三氏と共に酒造りに取り組んでいる。

冷えたビールのち常温の純米酒

「初めはビール。夏は500ml缶、冬は350ml缶を飲んでから、純米酒を常温で酌む」と杜氏は言った。「福祝」を醸す藤平酒造の杜氏・藤平典久さんだ。藤平家は3兄弟。和也さんを筆頭に3歳違いで典久さん、淳三さんと続く。父の富雄さんは典久さんが12歳の時に亡くなり、以来、母の恵子さんが外部からの南部杜氏と共に蔵を切り盛りしていた。

その杜氏が高齢により引退するのを機に、典久さんが急遽、後を継ぐことになった。できるだけ早く酒造りを習得しなければならない。そこで、淳三さんも加わって麹造りを専任することで役割分担し、杜氏としての一歩を踏み出した。

「始めて数年の酒は正直、ろくなもんじゃなかった。製造機器を扱う業者でとてもよくしてくれる方がいましてね。全国の酒造りの最新情報を教えてくれたり、一緒に酒蔵見学に付き合ってくれたり。『喜久酔』の青島孝さんや『開運』の波瀬正吉さんの酒造りには大きな影響を受けました。そのせいでしょう、うちの酒を静岡の酒っぽいねという方も多いんです」

この晩、食卓にはカツオの刺身やゴーヤチャンプル、冷奴など恵子さんの手料理が並んだ。酒は、注文が最も多いため自分で飲むのを我慢している山田錦55%磨きの純米酒を「今夜は特別に飲んじゃいます」と開けた。大好物のカツオをつまみ、愛用の江戸切子のグラスで酒を啜る。

房総名産のカツオは一年中鮮度抜群のものが食卓に上がる。ゴーヤは夏の副菜の定番。この日のようなチャンプルの他、とうもろこしと一緒にかき揚げにして食べることが多い。冷奴は必ず脇を固め、口直しに活躍。やはり房総名産の海苔も藤平家の常備食だ。

食の好みは兄弟でまったく異なると典久さん。「弟はカプロン酸エチル系、いわゆるフルーティな香りの華やかなタイプが好み。私は香りが穏やかで旨み重視のタイプ。兄はそもそも酒をあまり飲みません。私は蕎麦や和食が好きですが、弟はナポリタンやオムライス。不思議ですね。そんな兄弟で、いろんなタイプの酒を造っているんです」

視線の先にはテレビに映したYouTube。懐メロや犬の日常を追ったチャンネルがお気に入りだ。「晩酌すると疲れがとれます。酒のリラックス効果のおかげでしょう。無心になれるひと時ですね」

ほとんどの酒造り作業をたったひとりでこなす典久さんのハードワークを支えているのは、酒とワンコとの癒しの時間だった。

YouTubeを観ながら愉しむ仕事終わりの一杯がハードワークの疲れを癒す

『藤平酒造』 @千葉県

1716年創業。名水の里として知られる久留里で「福祝」を醸している。使用する酒米や酵母の違いで、定番だけで12種ほどをラインナップ。人気は山田錦55%精米の特別純米や山田錦70%精米の辛口純米など。

【福祝 特別純米酒 無濾過】

『藤平酒造』の「福祝 特別純米酒 無濾過」

【福祝 辛口純米酒 無濾過】

『藤平酒造』の「福祝 辛口純米酒 無濾過」
『藤平酒造』

撮影/松村隆史、取材/渡辺高

2023年10月号

※2023年10月号発売時点の情報です。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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おとなの週末Web編集部
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