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酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?杜氏の晩酌に、お邪魔します。

静岡県掛川市『土井酒造場』

【榛場農(しんば・みのり)氏】

『土井酒造場』の杜氏、榛場 農(しんば みのり)氏

1977年、静岡県生まれ。バイオ系専門学校卒業後、静岡県内の蔵を経て、1999年に土井酒造場へ。能登杜氏四天王のひとり、波瀬正吉氏のもとで酒造りの修業を積み、2015年に杜氏に就任。

飲み飽きしない本醸造を、常温で

「肴はいつも妻にお任せ。出してもらった料理で酒を酌む」と、杜氏は言った。「開運」を醸す土井酒造場の杜氏・榛葉農さんだ。晩酌はビールに始まり、気分次第で日本酒になることもあると言う。「自分で造った酒を飲むと、どうしても無意識に仕事モードになってしまうもので。実はプライベートではあえて避けることも多いんです」と本音を漏らし、苦笑する。

新型コロナの影響がなければ、本来は造りに入った冬から春にかけては蔵人全員が蔵に住み込み、毎晩「開運」を酌み交わしているそうだ。榛葉さんのお気に入りは、普段飲みの定番酒「開運 祝酒」。飲み口は軽やかながら、味がしっかり乗ってキレもよい。飲み飽きしない本醸造だ。燗も間違いない旨さだが、常温をやるのが榛葉流。

「かつて師匠の波瀬正吉杜氏ら蔵人と飲んでいた時は、決まって燗酒。下っ端なので人に注いだり、燗をつけたり落ち着かなくて。その点、常温だと気がラクで」と笑う。その晩、食卓には、ポテトサラダと茄子の揚げ浸しがあった。「妻は日本酒をはじめワインなどの販売をしていて、酒と相性のいい食べ物の研究にも熱心で、料理も上手いんですよ。さっと作ってくれるものが、その日の酒によく合って、しみじみ旨いんです」

酒呑みの心を熟知する奥さん手製の佳肴はさりげなく酒を引き立てる。榛葉杜氏の奥さんは静岡の地酒を中心に販売を手掛ける榛葉冴子さん。その晩飲む酒の味を引き立てることを第一に作られた冴子さんの手料理を肴に酒を酌む。この日はタラのポテトサラダと茄子の揚げ浸し

ポテトサラダは、甘塩のタラと玉ねぎ、パセリが入るシンプルかつユニークなもの。マヨネーズは控えめで、お酢が効いた爽快感がコクのある「開運」とよく合う。茄子の揚げ浸しは、醤油のダシを十分に含んでなんとも味わい深く、薬味のミョウガと大葉もいい仕事をしている。ひと口頬張り、酒をツイーとやった榛葉さんは「酒が進んじゃうなあ」と唸った。

榛葉さんが「開運」のお供にすすめするのは、静岡名産のマグロやカツオなどの赤身の魚。能登杜氏の地元、富山湾名産のブリとの相性も格別だと言う。「赤身やブリのような魚に寄り添うには、苦味が必要なんです。酒で苦味は雑味として敬遠されることも多いですが、後味にほのかに感じる程度に苦味を持たせた酒は魚の旨みを受けて止めて、飲むほどに旨くなる。『開運』が飲み飽きしないのも、そのあたりがポイントになっているかもしれません」

実は、奥さんの冴子さんと知り合うまでは、料理との相性には興味はなく、ひたすら酒質の精錬を追求する造り手だったと振り返る。「合わせる肴によって酒の魅力が何倍にもなることを教えてくれたのは、妻ですね。先日、鰻を食べた時にはうちの吟醸酒が合いそうだなとふと考えたり。家での晩酌が、杜氏としての自分を鍛えてくれていますね」

『土井酒造場』@静岡県

代々静岡県掛川市で名主を務める家柄で、明治期に酒造りを始める。長年、伝説的名杜氏・波瀬正吉氏が指揮をとり、2003年から全国新酒鑑評会において7年連続金賞受賞の快挙を成し遂げる。代表的な銘柄は「開運」

開運 祝酒 特別本醸造】

『土井酒造場』の「開運 祝酒 特別本醸造」
『土井酒造場』

撮影/松村隆史、取材/渡辺高

2022年9月号

※2022年9月号発売時点の情報です。

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おとなの週末Web編集部
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