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酒のプロフェッショナル「杜氏」は、一体、自身の醸した酒をどのように楽しんでいるのか?杜氏の晩酌にお邪魔する本連載。第2回目は「群馬泉」の杜氏・島岡さんの晩酌を覗いてきました。

群馬県『島岡酒造』

【島岡 利宣氏】

『島岡酒造』の杜氏、島岡 利宣氏

1972年、群馬県生まれ。大学卒業後、会社員を経て、1998年に家業の酒造を継ぐべく、広島の国税庁醸造研究所(現酒類総合研究所)に入所し、酒造りを学ぶ。6代目蔵元に就任し、杜氏も務めている。

燗酒の冷めゆく味の移ろいを愉しむ

「熱燗をつけて、自然に冷めていく酒をいろんな温度でゆったりと酌(く)む」と、杜氏は言った。「群馬泉」を醸す島岡酒造の杜氏・島岡利宣さんだ。和食のお供はもっぱら日本酒。群馬泉の中で最も手頃な定番「本醸造」を暑い夏でも燗でやるのが、島岡さん流だ。

「栓を抜いたばかりのものと、何日か経って瓶の底に残っていたものでは味わいが違うし、片口に注いでからステアするかどうかでも、口に含んだ時の柔らかさが変わってくる。酒器も山ほどあるんですよ、つい旅先で買っちゃって。お猪口も土ものか磁器か、口が広がっているかとかで味わいが随分変わるんでね……楽しみ方がマニアック過ぎますよね」と笑う。その晩、食卓には、もつ煮と豚バラ肉の焼き物、きゅうりの浅漬けがあった。

素材の持ち味を引き出した飾らない料理に名脇役の酒が寄り添う。群馬の名物もつ煮は定番の肴。奥さん特製の豚バラの醤油麹焼きも、どっしりとした肉の旨みを「群馬泉 本醸造」が受け止めてくれてめっぽう旨い。塩とショウガでシンプルに漬けたきゅうりもいい箸休めだ

群馬県西部は古くから養豚業が盛んで、ここ太田市でも豚肉料理をよく食べる。ソウルフードとも言えるもつ煮は、各家庭でお気に入りの店のものを買って日常食にしているという。熱々のもつ煮をひと口、間髪入れずに上燗の頃合いの本醸造をキュッ。「うん、これです。何度となく味わっている組み合わせだけど、やっぱりいいですね(笑)。うちの酒は肉料理と一緒に、なかなかいい仕事すると思いますよ」

島岡さんが目指しているのは、ずっと飲んでいられる、そしてまた次の日も飲みたくなる食中酒。伝統的な山廃造りで醸し、1〜2年熟成させることで、まろやかながら深い味わいがのっている。肴にそっと寄り添い、素材の旨さを引き立ててくれる名脇役が理想だ。先々代がよく言っていた「酒だけ味わって旨いって言われるような酒じゃまだまだ」という言葉を島岡さんは日々噛み締めている。

「世の中には、俳優で言えば主役を張ったりグラビアを飾ったりする時代の寵児のような、誰もが旨いと唸る酒もあるけど、うちは違う。存在感は薄いけど、そういやこの俳優がいると不思議と映画が締まるんだよな、みたいな酒でありたいんです。そういう旨さは急には創り出せなくて、10年、20年、下手すると一代、二代と時間がかかる。少し進んでは、たまに後退しながら、地道に造っています」

『島岡酒造』 @群馬県

1863年創業。赤城山からの豊かな湧水と、蔵に棲みつく天然乳酸菌の力を利用し、地元産の酒米を使った昔ながらの生酛系山廃造りを守っている。広く親しまれているのが、熟成した味わいの定番「群馬泉 本醸造」

【山廃酛 本醸造 群馬泉】

『島岡酒造』の「山廃酛 本醸造 群馬泉」
『島岡酒造』

撮影/松村隆史、取材/渡辺高

2022年10月号

※2022年10月号発売時点の情報です。

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おとなの週末Web編集部
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