“腸活”という言葉を聞いたことはあっても、実際さほど意識していない人の方が多いのでは?今回は、腸の大切さをお伝えします。これまで、優に5万件を超える大腸内視鏡検査を行ってきたという腸の専門医・松生(まついけ)恒夫先生。そんな腸の第一人者の医師に、まずは知っておきたい大事なことを伺ってみました。
【松生恒夫先生】
松生クリニック院長。医学博士。東京慈恵会医科大学卒業。地中海式食生活、漢方療法、音楽療法など取り入れた診療で効果を上げている。『暑さによる腸の砂漠化にご用心』(シロクマ社)など著書多数。
[HP]http://matsuikeclinic.com
寿命は腸で決まる 腸を制する者が免疫を得る!
――昨今やたらと“腸活”を耳にしますが、そんなに腸を大事にしないとダメですか?
「まさかとは思いますが、腸を侮っていませんか?腸は、全免疫細胞の60%以上が存在する、体内で最も大きな免疫系です。つまり、腸内環境を制する者が免疫力を高められるのです。寿命は腸で決まると言っても過言ではなく、腸を強くする食生活がなにより大事なんです」
――早くも猛省中です(汗)。腸を強くする……それって、近年日本人が極度に増加傾向にあるという「大腸ガン」の予防にもなるんですか。
「もちろんです。大腸ガンの発生要因は、遺伝や環境によるものと言われますが、環境因子のなかでも『食事』が大きく関与しているのではないかと言われています。もっと日常的な点では、加齢による体の衰えが顕著に現れるのが、便秘などに代表される腸の機能低下。老化は、まず『腸』に現れるのです。逆を言えば、腸の調子がいい人は、若々しい人が多いですね」
――では、どのような食事が腸を強くするのでしょう?
「日本人に合うのは、ズバリ『地中海式和食(R)』、これがおすすめです。この地中海式和食(R) は私が考案したのですが、『地中海式食生活』と『和食』を組み合わせ、それぞれの長所を生かしたものです。
そもそも地中海式食生活というのは、ギリシャやイタリアなどの地中海沿岸地域の食生活、特に南イタリアの伝統食が好例なのですが、一番の特徴は“オリーブオイルを豊富に使う”という点。昨今ではダイエットにも効果的と世界的に注目されているので、聞いたことがある人も多いのでは?エキストラバージンオリーブオイルには、オレイン酸、ビタミンEなどのほか、32種類ものポリフェノールが含まれています。
そしてオリーブオイルを日に25〜50ml摂取する地中海型食生活を送ることで、大腸ガン発症率の低下の可能性も、イタリアの大学の研究でわかりました。またオリーブオイルは、腸を刺激し蠕(ぜん)動運動を活発にする働きもあるので、排便促進効果もあるんです」
――すごいじゃないですか、オリーブオイル!でも和食に合わせるって、いまいちピンと来ないんですが……。
「和食とは、いわゆる一汁三菜をベースにしています。ご飯、味噌汁、漬物や納豆などの発酵食品、野菜のお浸しに焼き魚……。これらすべてにエキストラバージンオリーブオイルをかけるというわけではなく、例えば納豆にかける、それだけでいいんです。味噌汁に入れたっていい。量は、日に大さじ1〜2杯摂ればOK。なにかに足す感覚でエキストラバージンオリーブオイルを加えればいいだけなら、簡単でしょう?」
――なるほど。刺身にかけたりしても合いそうですね。
「生魚は、小腸の大事なエネルギー源であるグルタミンを多く含んでいるのでいいですね。グルタミンは肉、魚、卵などタンパク質の豊富な食品に含まれますが、40℃以上で性質が変わるため、刺身や生卵で摂るのがおすすめです。もうひとつ、腸の専門家の間で昨今最も注目されているのが『酪酸』です。
酪酸は、大腸の働きを高める大事なエネルギー源で、短鎖脂肪酸(腸内細菌により作られる有機酸)の一種。これについては後述しますが、酪酸の産生が高まれば大腸環境がよくなるだけでなく、全身の免疫向上にも繋がるんです」
――正直驚きました。腸ってスゴイ!まじめに腸活、取り組みたいと思います!
イラスト/岸潤一、取材/編集部
※2023年10月号発売時点の情報です。
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