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早く構えて早く振る。これがゴルフというもの

1947年に、「ゴルフ・イラストレイテッド」の記者がジョージの家を訪ねたことがある。そのとき食卓に兄弟とその息子たち9人がいた。インタビューの最後に、記者が一座全員のハンディを尋ねたところ、9人の合計が「5」だった。

「ダンカン一族は、むかしから揃って早打ち。何か家訓のようなものがあるのですか?」

質問にジョージが答えて、

「うちの一族が早いわけではない。他が遅すぎるのだ。現場に行ってから考えると、どうしても遅くなる。俺たちは歩きながら観察し、現場に着いた瞬間、閃いたクラブで歯切れよくスウィングすることだけを心掛ける」

「プレーの遅い人に対して、何かアドバイスを」

「個人の能力の問題だね。考えをまとめるのに時間のかかる人もいる。かのトム・モリス翁は、頭の悪い人ほどプレーが遅いと言った。ウィリー・パーク・シニアも、臆病な人間ほどプレーに時間を要して、しかも自分の決断に最後まで疑いを持つと語った。全英オープンに3連勝したジェームズ・アンダーソンなど、もし時間をかけて最高のショットが約束されるなら、自分はボールの前に1時間でも立つ用意があると笑ったものさ」

「つまり、名選手は揃ってプレーが早いというわけですね」

「アメリカの連中は違うようだが、スコットランド出身者はスピードもゴルフの重要なテーマだと考えている。それというのも、他のプレーヤーを待たせるのは悪いことだからだ。人に迷惑をかけまいとするならば、自ずとプレーも早くなる。自分のことしか考えない奴は、好きなだけ時間を浪費して、いつしか仲間に嫌われる」

「あなたは、パットも早いですね」

「普通だよ。息子のジョンは俺より早い」

「それでいて、たとえば1918年のアイリッシュ・オープン最終日、優勝したあなたの18ホールのパット数が27。電光石火のパッティングがウソのように入ると、当時の新聞に書かれています。一体、どうしたら早く打って入るのか、そのコツを教えてください」

「パッと見た瞬問の、それも最初に浮かんだラインの上を打つこと。あれこれ考えたところで、結局は最初に閃いたラインに従うのがゴルファーの性というもの。だから、パッと見て閃いたラインが消える前に打つ。あっさり打ったショットは、たとえミスしても、あっさり忘れることができるだろ? 反対に時間をかけた上でのミスは、試行錯誤した分だけ重くのしかかって、次のショットまで狂わすのがオチだ」

「するとゴルファーは、あまり早打ちを気にしなくていいわけですね」

「早く振るのが自然なのさ。人はゆっくり振れと忠告するが、いかな名人でもインパクトからフォローにかけて、途方もないスピードで振ってるよ。ゆっくりしたテークバックにだまされてはいけない」

「多くのアマチュアは自分のスウィングが早すぎると考え、悲観しているものです」

「早すぎる? 笑わせちゃいけない、俺から見たら遅すぎるよ。ヘッドの抜けが遅いからスライスになるのさ」

「では、自信を持って早く振れと断言しますか?」

「もちろん! 早く構えて早く振る、これがゴルフというものよ」

1964年、ジョージ・ダンカンは81歳で亡くなるが、生涯に儲けた子供が14人、ゆえに人は彼を「上から下まで早打ちダンカン」と呼ぶ。

(本文は、2000年5月15日刊『ナイス・ボギー』講談社文庫からの抜粋です)

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夏坂健

1936年、横浜市生まれ。2000年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。毎年フランスで開催される「ゴルフ・サミット」に唯一アジアから招聘された。また、トップ・アマチュア・ゴルファーとしても活躍した。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。

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おとなの週末Web編集部 今井
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