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あのパーマー、バロステロスも緊張してアガっていた

「ジ・オープンに参加した選手は、他のメジャーと異なるプレッシャーに遭遇して、落ち着かないこと夥しいのが普通なのさ。だってトロフィーに刻まれた歴代チャンピオンの名前を見てごらんよ。トム・モリス、ハリー・バードン、ヘンリー・コットン、ボビー・ジョーンズといった伝説の巨人たちがキラ星のように並んでいるんだ。次の瞬間、自分がとても小さく感じられて、どうふる舞っていいのかわからなくなる。かなりのベテランでも、初日のスタート前には10回ほど空ツバを飲み、10回ほど深呼吸してからティアップするほどアガっている。あのパーマーでさえ初参加の1番、ティペッグがあるつもりでボールをじかに置いたもの」(1960年度のチャンピオン、ケル・ネーグル)

「もし100歳まで生きて、1つだけ思い出のゲームが脳裏に残るとしたら、それはジ・オープンの第100回記念大会だろうね。1960年、セントアンドリュースの夏、私は怖いもの知らずの若者だった。もちろん、4日間のショットの全部を覚えている。スコアは『70・71・70・68』だったが、この中にはラフで合計5回も手こずった分も入っている。凄いだろ?」(アーノルド・パーマー)

「世界を手に入れた瞬間が味わいたかったら、ジ・オープンで優勝するしかない。シーザーもアレキサンダーも、チャンピオン以上に欣喜雀躍したことがあるだろうか」(ジャック・ニクラウス)

「まず風が吹く。いつかやむと思うのだが、どこにエネルギー源があるのか一向にやまない。風の中のプレーは5倍も疲れる。加えてラフのすさまじいこと、夜にはフォークも満足に握れない。見る夢といったら背丈の隠れるほどの茂みで苦闘する姿ばかり。4日目には4キロも瘦せて、スパイクを履くのさえ大儀になる。ジ・オープンというのは本当につらいゲームの連続だ。気がついたかね? 1世紀以上も続くトーナメントだというのに、かつて選手も役員も笑ったことがない。いつの試合であれ、ジ・オープンには笑顔と女の役員は存在しないのだ」(へール・アーウィン)

「1979年のロイヤル・リザム・アンド・セントアンズでは、ティショットが満足に打てないほど緊張していた。真ん中に飛んだのは数発だけ、あとはラフ伝いの毎日だった。ところがゴルフは皮肉、かつてないほどアプローチが冴えてパットも入る。優勝したとき、作家のダン・ジェンキンスが僕に言ったものだ。

『あれ!? きみは観客整理係かと思ったよ』」(セベ・バレステロス)

「ジ・オープンに賞金が出たのは第4回大会から。1876年の勝者ボブ・マーチンが得たのは、たったの10ポンドにすぎない。1899年の勝者ハリー・バードンが50ポンド、1920年に13打の大差をひっくり返して優勝したジョージ・ダンカンが、ようやく100ポンドを得ている。いまと貨幣価値が異なるといっても、そう大した金額ではない。要するにジ・オープンでは名誉が最大の関心事だったことを、歴史が如実に証明している。ところが昨今では途方もない賞金だ(注・邦貨約4000万円以上)。カネが名誉を上回ったとき、伝統の精神に亀裂が入ること必定。21世紀のジ・オープンは、野趣が売り物のトリックショットのショーになるかも知れない」(評論家、トーマス・ポッターハウス)

「なんでもいい。とにかく僕はジ・オープンで優勝したかった。子供のころ、

『これが入れば優勝だ!』

感動のシーンを夢想しながらパッティングに耽ったものだった。それが現実となって、いま、どうしていいかわからない」(ニック・ファルド。1987年のミュアフィールドで初メジャーを制したとき)

「ジ・オープンで優勝してからの1ヵ月間、毎日6時間も祝賀電話の相手をしていた。メジャーの中でも、あの試合は特別なのさ」(イアン・べーカーフィンチ。1991年のチャンピオン)

(本文は、2000年5月15日刊『ナイス・ボギー』講談社文庫からの抜粋です)

『ナイス・ボギー』 (講談社文庫) Kindle版

夏坂健

1936年、横浜市生まれ。2000年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。毎年フランスで開催される「ゴルフ・サミット」に唯一アジアから招聘された。また、トップ・アマチュア・ゴルファーとしても活躍した。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。

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おとなの週末Web編集部 今井
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