和食を知っていただきたいという“大きな改革” 年が経ち、お小さかった浩宮さまも今は天皇陛下になられている。陛下は令和5年(2023年)には、小さいけれど大きな改革をなさった。それは、外国からの賓客のおもてなしの席でのこと…
画像ギャラリー桃の節句の3月3日、天皇家では節句にちなんだ節句料理が出される。天皇陛下や秋篠宮さま、黒田清子さんがまだお小さかったころ、美智子さまはお子さま方が喜ばれる彩のよい手まり寿司を出されていた。年月が経ち、小振りで美しい手まり寿司は、天皇陛下と雅子さまが行った海外の賓客へのおもてなしに登場した。それは、明治以来続いたフランス料理での慣例を打ち破る画期的なことだった。今回は、小さな手まり寿司の大きな活躍の物語である。
お子様方も喜んで召し上がるかわいらしいお寿司
女の子の健やかな成長を祈る年中行事のひなまつり。桃の花が咲く時期であることから、桃の節句とも呼ばれている。かつて上皇さまと美智子さまは、御所のお和室に節句にちなんだ飾り物やお供え物をしてお祝いされ、ご夕餐をとられていた。
例えば、平成30(2018)年の桃の節句の和室のしつらいは、床の間には蛤が描かれた掛け軸、壇上には楽人の人形に桃の花と菜の花があしらわれ、左右には雛人形と御所人形が飾られた。床の間の前には、大きな三宝1つと小さな三宝が8つ並べられた。大きな三宝には菱餅をお供えし、小さな三宝にはお菓子や寿司、貝類などのご馳走が乗った。
ご夕餐には、美智子さまは曲げ割っぱに色とりどりの料理と手まり寿司などの節句料理で、お子様方を楽しませた。節句の日にも宮中祭祀やご公務でお出かけになり、お子様方と一緒に過ごすことができないことが多かったから、せめてもの心づくしだったという。
一般の家庭では、桃の節句にちらし寿司と蛤の吸い物でお祝いをする。美智子さまの手まり寿司は、一般のちらしずしのようにさまざまな具の入った酢飯に錦糸卵を乗せて小さく丸めた、かわいらしいお寿司。錦糸卵の黄色にちょこんと乗った木の芽の緑が鮮やかで、思わず手を伸ばしたくなる料理である。これなら小さなお子様方も喜んで召しあがるだろう。
和食を知っていただきたいという“大きな改革”
年が経ち、お小さかった浩宮さまも今は天皇陛下になられている。陛下は令和5年(2023年)には、小さいけれど大きな改革をなさった。それは、外国からの賓客のおもてなしの席でのことである。フランス料理の前菜として、和食の手まり寿司を出されたのだ。
11月17日、4年ぶりに外国からの賓客をお招きして皇居・宮殿で午餐会(昼食会)が開かれた。招待されたのは中央アジア・キルギス共和国のジャパロフ大統領夫妻である。天皇家では明治以来、賓客を迎えての会食はずっとフランス料理で接遇してきた。その慣例を破って和食を提供するのは、大きな改革だったのである。
この日の前菜には、蒸しエビやホタテの手まり寿司がテーブルに華を添えた。それは、天皇陛下と雅子さまの「和食を知っていただきたい」というお気持ちによる発案だったという。
平成25年(2013年)、和食は日本人の伝統的な食文化として、ユネスコ無形文化遺産に登録された。四季がある日本は、多様で豊かな自然に恵まれ、そこで生まれた食文化も四季に寄り添うように育まれてきた。そんな「自然を尊ぶ」という日本人の食に関する習わしが、世界に評価されたのだ。
ジャパロフ大統領夫妻を招いての午餐会も、季節にちなんだメニューであった。最初に出された美しくかわいらしい手まり寿司は、お客さまたちの心をつかんだことだろう。お小さいころに召し上がった、「食べやすく、美しい手まり寿司」が天皇陛下のお心に残っていたのかもしれない。(連載「天皇家の食卓」第15回)
文・写真/高木香織
参考文献/『宮中 季節のお料理』(宮内庁監修、扶桑社)
高木香織
たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、カレンダー『永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。