行列、麺切れ、別れを惜しむ人が店に押し寄せる
Xのポストを経た5月20日過ぎには、まことしやかな噂が瞬く間に50人を超える大行列を呼び、14時前には完全に「麺切れ」のため店じまいする、という営業になっていた。
行列をさばくレーンも格段に長く設置され、さながらアトラクションのようであった。
ご多分に漏れず、噂を聞いて昼過ぎに駆け付けたわたしも麺の提供に間に合わず、「うどんが品切れのため」という見慣れぬポップを前に、涙を飲んだ。
ならば、狙うは「開店時刻」だ。翌朝の再訪を決めたわたしは、作戦を練った。
せっかくならば口開けの客になってみたい。
10時開店よりも先にと、池袋西武に向かったのである。
ミッションはこうである。屋上庭園のある本館9階にスムーズに上がるためには、1階入口からの入店では遅れをとる。ならば第1陣のエレベーターが出る、地下入口で待機すべきだろう。
策を講じたつもりであるが、朝方、意気揚々と地下入口に向かうと、開店前にはすでに多くの人が詰めかけていた。これは焦る。
そして運命の10時が訪れた。
西武のスタッフさんの深々としたお辞儀と、鳴り響くチャイムに合わせて、エレベーターへの誘導が始まる。
すると、乗り合わせたお客さんの多くが、「9階」のボタンがすでに光っていることに気付いて指を引っ込めている。どうやらご同輩らしい。
そして満載の人びとを乗せたエレベーターが9階にたどり着くと……。
なんと、ダッシュ!
目的地を定めた人びとが、わき目もふらずに、かるかやの行列に群がるのである。のんきが取り柄のデパ屋において、不思議な光景ともいえる。
はやる気持ちを抑えながら、「押さない駆けない」を守って行列の後に並ぶと、開店待ちをしたというのに、たどり着けたのは10人目ほどであった。
事前に、オーダーするものは決めてあった。池袋民の血となり肉となっている、一番人気メニューの「つけうどん(冷)」(550円)。
のれんに首を差し入れて、最小限の言葉でお願いする。スピード感のある提供も『かるかや』ならではの仕組みであって、注文して脇の割りばしをいただくころには、お盆にトンと乗っている。
レジ脇に置かれたビール缶のディスプレイにむしょうに惹かれ、「スーパードライ」(500円)も追加で注文する。
時刻は朝の10時とちょっと。この背徳感がたまらない。
後に並ぶ人の動線を考えて、つけ汁に七味とゴマをいただいてからスッと抜け、お盆を持って座席をサーチ。せっかくなのでお店がよく見える特等席にひとり座る。