ウエストコースト・ロックらしい抜けの良いサウンド
アルバムからは「THE LONG RUN (ロング・ラン)」「HEARTACHE TONIGHT(ハートエイク・トゥナイト)」が全米No.1シングルとなった。新加入のティモシー・B・シュミット がリード・ヴォーカルを担当した「I CAN’T TELL YOU WHY(言いだせなくて)」もスマ ッシュ・ヒットとなった。
“長く走って来た~ロング・ラン”から始まり、バンドの終焉を予告するような「サッド・カフェ」で終わる構成は、イーグルスというバンドのキャリアを総括するようなコンセプト・アルバムになっている。
録音も良く、いかにもウエストコースト・ロックらしい抜けの良いサウンドはドライヴに今でもぴったりフィットする。
良心的なロックの最後のアルバムのひとつ
1960年代半ばにロックという言葉が定着。 1970年代には、ブルーズ・ロック、プログレ ッシヴ・ロック、カントリー・ロック、ヘヴイメタル・ロック、パンク・ロックなどとロ ックは多様化していった。
ぼく個人で言うと、この『ロング・ラン』はウエストコースト・ロックのみならず、いわゆる良心的なロックの最後のアルバムのひとつという位置付けだ。
ディスコ・サウンド、ヒップ・ホップなど非ロック的音楽、スタジアム・ロックと言われる産業化したロックが中心となる1980年代前夜、ロックの最後の良心がこのアルバムを 産み出したと思えてならない。
イーグルス唯一の日本でのNo.1アルバム
アメリカのビルボード誌ではもちろんNo.1 日本のオリコンチャートでもNo.1となってい る。イーグルス唯一の日本でのNo.1アルバムというのも感慨深い。
今、『ロング・ラン』を聴くと、彼らをよく知るオールド・ファンは懐かしさを覚えるだろう。一方、彼らの全盛期を知らない音楽ファンには、新鮮な発見を与えてくれると思う。 ミュージシャンもレコード会社も今ほどビジネスを優先していなかった時代の自由な発想 のロック・マインドがこのアルバムにある。
■『THE LONG RUN(ロング・ラン)』
1 、ロング・ラン
2 、言いだせなくて
3 、イン・ザ・シティ
4 、ディスコ・ストラングラー
5 、ハリウッドよ永遠に
6 、ハートエイク・トゥナイト
7 、ゾーズ・シューズ
8 、ティーンエイジ・ジェイル
9 、グリークスはフリークスお断り
10、サッド・カフェ
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。近著は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。