豊かな自然と温暖な気候に恵まれた広島県三原市に、瀬戸内海の風景を絵画のように切り取るワイナリー&レストラン『瀬戸内醸造所』がある。ここは造船所の跡地を改修して2021年に誕生した、瀬戸内の自然や風土、文化を発信する醸造所である。オーシャンビューのレストランを併設し、ワインと食事とのペアリングが楽しめるスポットとして今もなお多くの観光客を魅了している。そんな話題の醸造所の誕生秘話と、地域の食文化を次世代へと繋ぐ工夫とは?
画像ギャラリー豊かな自然と温暖な気候に恵まれた広島県三原市に、瀬戸内海の風景を絵画のように切り取るワイナリー&レストラン『瀬戸内醸造所』がある。ここは造船所の跡地を改修して2021年に誕生した、瀬戸内の自然や風土、文化を発信する醸造所である。オーシャンビューのレストランを併設し、ワインと食事とのペアリングが楽しめるスポットとして今もなお多くの観光客を魅了している。そんな話題の醸造所の誕生秘話と、地域の食文化を次世代へと繋ぐ工夫とは?
瀬戸内の風景を取り込んだ、旅の目的地としてのワイナリー
ワイナリーに到着すると、まず驚くのが目の前に広がる雄大な景色だ。垂木が連続した屋根が特徴的な建築構造によって、絵画のように切り取られた瀬戸内海の“多島美(たとうび)”を望むことができる。設計したのは、「物語る風景」をコンセプトに掲げる「SUGAWARADAISUKE建築事務所」だ。独自のワインづくりに取り組むことはもちろん、建築の構造に瀬戸内の風景を組み込むことで、遠方からでも観光地としてわざわざ足を運びたくなるワイナリーに仕上げたという。
地の恵みをふんだんに使用したレストランも魅力
建物の中は手前にワインショップ、奥にレストラン「mio」があり、瀬戸内海屈指の多島美を臨みつつ、醸造所で作られたワインを味わうことができる。
愛する故郷の情景と食文化を次世代に継承したい
醸造所を立ち上げた代表の太田祐也さんは、地方創生のコンサルタント会社を設立後、地域ブランドや小規模事業者の支援を行ってきた人物だ。活動を行う中で「地元である瀬戸内の情景と食文化を次世代に継承し、世界に発信したい」という想いが芽生え、自身が生まれ育った三原市に施設を立ち上げることを決意したのだという。
「実家は此処からすぐ近くの場所にあり、このエリアは僕が幼い頃から慣れ親しんだ区域です。しまなみ海道を自転車で渡っていた時にひとつ一つの島に地酒があり、郷土の食材をペアリングできる場があると面白いなと思い、この地でワイナリーを立ち上げることを思いつきました」と、太田さん。
日本有数のブドウの産地だった瀬戸内
「東京のみなさんからすると瀬戸内にはワイン造りのイメージが殆どないと思いますが、実は温暖で雨が少なく、晴れが多い沿岸部は古くから日本有数のブドウの産地でした。一方、最近は高齢化とともに担い手不足や耕作放棄地問題があり、生産量が減少してきました。その問題を自ら解決したいと思い、設立したのが『瀬戸内醸造所』です」と太田さん。
瀬戸内の旬と向き合い、訪れた人にワインだけでなく地元食材を存分に楽しんでもらいたいという考えから、単体でも旅の目的地になるローカルレストランの立ち上げも同時に進めていったそうだ。
地域の一次産業を次世代に繋ぐ工夫とは?
『瀬戸内醸造所』では土壌や地形、植生などの瀬戸内地域の多様な違いを、個性として打ち出すワインづくりに励んできた。想いに共感してもらえる栽培家にぶどうの栽培を依頼するほか、自社でも瀬戸内海の海沿いと山側でぶどうを栽培している。
「弊社では瀬戸内のテロワール(風土)を体現すべく、この地で昔から栽培されている生食用のぶどうやりんごを使ってワイン造りを行ってきました。収穫の際は果実にストレスを与えない手摘みを徹底しています。状態がいい果実を厳選して仕込むため、亜硫酸塩の使用は必要最低限。補糖・補酸は最低限せず、ぶどうの糖分のみで醸造。アルコール分を無理にあげていないので、穏やかな飲み心地となっています。ワインを飲み慣れた方からこんな味のワインは飲んだことがなかったと言われることも多いです」と、太田さん。
数あるワインの中でもおすすめは、フラッグシップワインである「2023 三原 ニューベリーA(発泡なし/スティル)」だ。ほのかにイチゴのようなニュアンスが香り、果実味とミネラル感を同時に感じるワインは、飲みやすく上品な味わいが魅力だ。
テロワールを生かしたワイン造りを行うほかにも、『瀬戸内醸造所』では苗木を提携農家へ渡し、できた果物を買い取りする形をとることで農家の新しい収益づくりを実現したり、耕作放棄地(過去一年以上作物を作付けせず、今後数年間の間に再び作付けする意思のない土地)をぶどう畑として活用し、土地の価値を向上させたりと、地域の発展に寄与する取り組みを継続的に行っている。
さらにワインを楽しむなら料理とのペアリングを
併設のレストラン「mio」では、できる限り生産者から直接仕入れた地域食材を使用し、四季に合わせたラインアップでワインに合う料理を展開している。時間があれば、華やかな前菜八寸や瀬戸内海域で採れた鮮魚、自家製のデザートなどがセットになった「瀬戸内の季節を感じていただくコース料理」(ランチ6500円と8800円、ディナー1万1000円)も、ぜひ楽しんでみてほしい。旬を体感できる料理とワインのマリアージュを満喫しよう。
かつて海運によって栄えた場所が持つ歴史と文化を継承しつつ、手間暇かけて作り上げたワインと地元食材を活用した料理で新たな魅力を発信する『瀬戸内醸造所』。温暖な瀬戸内で育ったぶどうの持つ優しさと強さ、そして地域が持つ風土や物語を次の世代へと繋ぐ意欲的な取り組みにこれからも目が離せない。
■ワイナリー&レストラン『瀬戸内醸造所』
[住所]広島県三原市須波西1-5-26
[電話]050-3749-9902
[営業時間]ワインショップ11時~17時、レストラン11時半~17時 ※ディナー17時半~21時(完全予約制)
[休日]火・水曜日、不定休あり
[交通]JR呉線「須波駅」から徒歩約20分
文/中村友美
フード&トラベルライター。東京都生まれ。美術大学を卒業後、出版社で編集者・ディレクターを経験後、現在に至る。15歳からカフェ・喫茶店巡りを開始し、食の魅力に取り憑かれて以来、飲食にまつわる人々のストーリーに関心あり。古きよき喫茶店や居酒屋からミシュラン星付きレストランまで幅広く足を運ぶ。趣味は日本全国の商店建築巡り。
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