“シャルキュトリー”って何?フランス人も唸る!この道30年の名手に魅力を聞いた

『ローブリュー』「フロマージュ ド テート」豚のほほ肉、タン、耳などを使ったテリーヌ。定番は冷製だが櫻井シェフはあえて温製に仕立てる。焼くことでゼラチン質がとろりととろけ、香ばしさも出る

ワインを楽しむ店のメニューでよく目にする“シャルキュトリー”。生ハムやサラミ、パテなどが有名ですが、同じメニューでも作り手によって全然違う味わいなのも面白いところ。このシャルキュトリーの数々を日々作り続け、長年メニューに据えている『ローブリュー』の櫻井信一郎シェフにその魅力と“なんたるか”を伺いました。

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ワインを楽しむ店のメニューでよく目にする“シャルキュトリー”。生ハムやサラミ、パテなどが有名ですが、同じメニューでも作り手によって全然違う味わいなのも面白いところ。このシャルキュトリーの数々を日々作り続け、長年メニューに据えている『ローブリュー』の櫻井信一郎シェフにその魅力と“なんたるか”を伺いました。

【お話を伺った人】『ローブリュー』の櫻井信一郎シェフ

【お話を伺った人】『ローブリュー』櫻井信一郎シェフ

約5年のフランス修業時代にレストランだけでなくシャルキュトリー店でも経験を積む。帰国後は代官山『パッション』、原宿『オー バカナル』シェフなどを経て2002年に自身の店をオープン。シャルキュトリーの名手として名を馳せる。

フランスの食文化に根差した職人の仕事

「シャルキュトリーというのは、簡単にいうと肉の加工品のことです」と教えてくれた櫻井シェフ。シャルキュトリーにはソーセージやパテ、ハムなど主に豚肉を加工したものが多いという。

「フランスにおけるシャルキュトリーは、日本でいう魚の加工品のかまぼこやはんぺんみたいなものじゃないでしょうか。誰もが知っていて、我々の日常に何食わぬ顔でいる。そういう存在なんです」

「パテ ド カンパーニュ」

『ローブリュー』「パテ ド カンパーニュ」豚の肩肉、のど肉、レバーを使う。見るからにみっしりと詰まっていて塩気も旨みも濃厚。重石はかけず、しっとり滑らかな食感を重視して仕上げている

フランスでは、料理人とシャルキュティエ(※)はまったく別の職業だという。レストランの厨房ではシャルキュトリーを作ることはなく、馴染みのシャルキュトリー専門店から仕入れるのが当たり前だ。そんななか、櫻井さんはフランス修業時代に「シャルキュトリー店で働いてみたい」と言いだして修業先のシェフを呆れさせた。

※シャルキュトリー専門店で働く職人のこと。ちなみに食肉加工品もそれを売る専門店も、フランス語では同じくシャルキュトリーと言う。

「そりゃあそうですよね。向こうの感覚だと魚屋で修業していたのに、いきなり花屋で働きたいと言い出したようなものですから(笑)。でもフランスで食べるとソーセージでも何でも旨くてね。日本で食べたものとは別物だった。そこでどうやって作っているのかどうしても見てみたかった」

フランス料理を学ぶなら、フランス人が日常でどんなものを食べているのかを知りたいと考えていた櫻井さん。フランスの食生活に根差したシャルキュトリーもまたそのひとつであった。

フランス人に驚かれた生ハム

シュークルート

『ローブリュー』「シュークルート」フランクフルト、ミュンヘン風白ソーセージ、豚すね肉、豚肩ロース肉など具のすべてが自家製シャルキュトリー。酸味のある発酵キャベツと一緒に煮込むアルザス料理

『ローブリュー』ではシャルキュトリーをすべて手作りしているが、なかでもフランス人に一番驚かれるのは生ハムだという。

「ア・ラ・メゾン(自家製)と書いてあるので、フランス人はまず不思議に思うようです(笑)」

本場フランスでも生ハムは専門の工房で作られることが多い。それをレストランで、となると首をかしげたくなるのもわかる。さらには、その自家製生ハムの完成度の高さに驚き、目を見張るという。

「そのときが一番の快感です」

もしもパリにフランス人の手打ち蕎麦屋があって、鰹節まで手作りだったらきっと度肝を抜かれるはず。「そういうことがしたかった」と櫻井シェフは晴々と笑う。

生ハム作りに取り組んだのはまだ『ローブリュー』を始める前のこと。きっかけとなったのは、修業先のバスクでおばあちゃんが作っていた生ハムだ。

「物干しのようなところにほったらかしにして作っていたので、簡単そうに思えたんですね」と振り返る。そこで長野にあった山の家で生ハムを仕込むことを思いついた。涼しくてカラリとした気候なので、作りやすいだろうと考えたという。

しかし最初の年は大失敗。様々な人に聞いて回り、やがて熟成が必要だということがわかった。長野で乾燥させた生ハムを、今度は店のワインセラーで熟成させてみるとこれが大正解。それから約30年、試行錯誤を繰り返し、毎年仕込み続けてきた生ハムは、今や安定しておいしくできるようになった。

『ローブリュー』生ハムはなんと約30年も前から自家製に取り組んでいる。工房で乾燥させた生ハムは店のセラーで熟成させるが、仕込みから完成には2年半以上の月日がかかっている

常連のなかにはそれを待ちかねる人が多く、リリースされるやいなや、あっという間に売り切れてしまう。今も店のワインセラーには食べ頃を待つ生ハムが眠っていて、来年春頃のリリースをのんびり待っている。

フランス人も唸る『ローブリュー』のシャルキュトリー。それはフランスの食文化が育んだ普遍的なおいしさのたまものなのだ。

『ローブリュー』

[住所]東京都港区南青山 6-8-18
[電話]03-3498-1314
[営業時間]18時〜20時半(LO)、土は〜20時(LO)
[休日]日・月 ※不定休
[交通]地下鉄銀座線ほか表参道駅B1出口から徒歩10分

撮影/貝塚隆、取材/岡本ジュン

2024年10月号

※2024年10月号発売時点の情報です。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

…つづく「大人が楽しむ新宿の晩ご飯7軒 人気酒場から隠れ家ビストロまで」では、覆面調査隊が、大人が楽しむ新宿の夜のおいしい料理とお酒のあるお店を実食レポートしています。

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