かつて神奈川県小田原市内には、路面電車が走っていた時代があった。その電車は今でも、市内にあるカフェでマスコット的な存在として展示・活用されている。こうした電車を利用したカフェは、市内の2か所にあり、件の路面電車の廃線跡をトレイルしながら、”二つの電車カフェ”を気軽に巡ることができる。鉄道ファンのみならず、小田原ならではの隠れた楽しみ方のひとつだろう。廃線跡トレイル(歩き旅)と電車カフェを巡る食レポならぬ“電車レポ”へ、いざ出発進行!
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※トップ画像は、かつて小田原市内線で活躍した”車齢100歳”を迎えた路面電車。箱根口ガレージ報徳広場に併設される「きんじろうカフェ&グリル」のマスコット的な存在として活用される=2025年4月5日、小田原市南町
路面電車「202号」
いつもなら廃線跡に遺された鉄道遺構を探さずにはいられないのだが、今回とりあげた路線は“いわゆる道路上(併用軌道)を走っていた”路面電車ゆえに、その後の道路整備や拡幅工事などで周辺状況は大きく様変わりしているので、その痕跡を探すことは不可能だろう。その代わりといってはなんだが、当時の路面電車が保存されていることを聞きつけ、出かけてみることにした。
でっかい提灯が出迎えてくれる小田原駅から箱根登山電車(小田急箱根鉄道線)に乗車し、ひと駅目の箱根板橋駅で下車した。改札を出ると駅前広場とでも言うのか、そこが妙に広いことに気づく。ここが小田原町内線(のちの市内線)と呼ばれた「チンチン電車」の停留場(始発駅)があったためだろうか。目の前を通る国道1号線に出て、小田原城方面に歩くこと15分、水色に黄色の帯をまとった可愛らしい路面電車が目の前に現れた。「箱根口ガレージ報徳広場」に設置されたこの車両は、かつて小田原市内を走っていた路面電車「202号」だ。
1925年生まれの“100歳”
この202号は、1925(大正14)年の生まれで、2025年で生誕100年を迎えた。最初は、王子電気軌道(のちの東京都交通局東京さくらトラム〔都電荒川線〕)で使用するために造られた車両で、1950(昭和25)年に箱根登山鉄道軌道線(路面電車)へ移籍してきた経歴を持つ。小田原では、1956(昭和31)年5月31日の廃線まで活躍した。
その後、長崎の路面電車(長崎電気軌道)へ同型の4両とともに嫁いだ。この202号は、長崎の地で2019(平成31)年まで活躍したが、老朽化のため引退。2020(令和2)年に、小田原の地に里帰りすることが決まり、2021(令和3)年2月に現在の場所に据え付けられた。なんとも幸せな路面電車なのだ。車体のカラーリングは、小田原市内線当時の色を再現している。