店に貼ってある写真を見て気が付いたことがあります。干潟で働いている人がほとんど黒人なのです。東北大学のカキ博士だった今井丈夫先生から中学生のとき聞いた話を思い出しました。
アメリカ南部には、アフリカから連れてきた黒人の奴隷を働かせて、綿やサトウキビなどを栽培する大規模な農園がありました。これをプランテーションといい、カキの養殖も同じような歴史があります。
アメリカ南部のカキ養殖の歴史をひもとくということは、人種問題というアメリカが抱える最大の問題に触れることになるのです。
アメリカ南部の名物料理「カキのガンボスープ」
レストランに入ると、「ガンボスープ」というアメリカ南部の名物料理が出てきました。たっぷりのカキに、オクラ、トマト、カニなどを煮込んだものです。ガンボとはオクラのことです。さまざまなものが交じり合った地。そこがニューオーリンズです。
アメリカ・ミシシッピの旅も終わりが近づいていました。もう8月10日、お盆が近づいて妻はそわそわし始めました。カキ生産者を訪ねて船で生産現場に行きたいのですが、知り合いがいませんでした。
昼食を食べたレストランのご主人に話かけると、
「いい人がいます。紹介しましょう」
と、場所を教えてくれました。
「カキじいさんの嗅覚はすごいですね」
と、大竹君もびっくりしています。ゆっくり海辺の方に車を走らせるとカキの殻が見えました。ベルトコンベヤーが動いていて、トラックに殻が落ちています。カキをむく作業場があって、いまむいていることがわかりました。
作業場に入っていくと、男の人が対応してくれました。
「日本のカキ生産者です」
と話しますと、驚いています。作業場では、50人ほどが、ナイフでカキをむいています。黒人が多いようです。名刺を差し出しますと、
「私は経営者ではありません。主は今日は不在です。私は現場監督のような立場です」
と言いました。
中を案内してもらうと、冷蔵庫の中は容器に入ったむき身のカキがたくさん重なっていました。大西洋ガキのむき身です。さっき食べたニューオーリンズの名物料理、ガンボスープの食材になるのです。
応接間には、漁場の大きな航空写真が張られています。ミシシッピ川をはさんで複雑に絡み合った広大な入り江の写真です。とにかく広大です。漁場の近くの基地まで車で半日かかります。そこから養殖場まで、船で2時間はかかるというのです。

