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カキが旨い季節がやってきた。ジューシーなカキフライ、炊きたてのカキご飯。茹でたカキに甘味噌をつけて焼くカキ田楽もオツだ。カキ漁師は、海で採れたてのカキの殻からナイフで身を剥て、海で洗ってそのまま生で食べるのが好みだという。

そんなカキ漁師の旅の本が出版された。カキじいさん、世界へ行く!には、三陸の気仙沼湾のカキ養殖業・畠山重篤さんの海外遍歴が記されている。

「カキをもっと知りたい!」と願う畠山さんは不思議な縁に引き寄せられるように海外へ出かけていく。フランス、スペイン、アメリカ、中国、オーストラリア、ロシア……。世界中の国々がこんなにもカキに魅せられていることに驚く。そして、それぞれの国のカキの食べ方も垂涎だ。

これからあなたをカキの世界へ誘おう。連載29回「20億年前の海で何が起きたのか…カキ漁師がミネソタの鉄山で見た「太平洋戦争」を左右した秘密」にひきつづき、メサビ鉱山からミシシッピ川をくだってニューオーリンズへ向かう旅である。どんな胸躍る出会いがあるのだろうか。

【前回まで】
ミシシッピ川源流近くのメサビ鉄山を訪ねる旅が、写真家の大竹君の提案で始まった。森と海のつながりを探るカキじいさんは、妻らとともにミネソタへ向かい、スペリオル湖畔から鉄鉱石輸送の歴史や五大湖の地理を知る。翌日、世界最大級の露天掘りであるメサビ鉄山に立ち、赤い大地が太古の植物プランクトンと鉄の反応によって生まれたことを実感するのだった。

赤の大地

アメリカのメサビ鉄山で、果てしなく広がる赤の大地をその目で見て、妻は植物プランクトンと鉄の関わりを納得したようです。じつは妻は、宮城県の塩釜女子高校(現・塩釜高等学校)生物部出身で、高校生活はプランクトンを顕微鏡で観察することに明け暮れていました。わたしより、プランクトンのことはくわしいのです。

でも当時、先生から、鉄とプランクトンのことを教えてもらったことはまったくなかったそうです。それもそのはずです。妻が高校生だったのは60年も昔のことです。

わたしが鉄とプランクトンのことを知ったのは45歳のときだったのですから。その頃、東北大学の地質学の先生が話されたことを思い出しました。

「海の生物のことを思って地質を研究している人は一人もいませんよ」と。

お役所の仕組みが「縦割り」といって役割が別々になっているのと同じで、学問の世界も、せまい分野を深く研究するという時代が来ていたのです。

前の晩、泊めてもらったミネソタ大学の先生も、

「縦割りという仕組みがどれほど学問を遅らせているか計りしれません。学者はカキじいさんのような発想を描けないのです。講演会を企画しますので、またぜひ、ミネソタに来てください」

と言われました。

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湖に漁師歌が響く
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高木 香織
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