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ミシシッピ源流へ

アメリカ最大の河川、ミシシッピ川の源流にとうとう着きました。と、書きますと、人跡未踏の秘境を想像しますよね。日本の何本かの源流まで行きましたが、かなり苦労しました。

でも、さすがミシシッピ川はスマートですね。立派な舗装道路が通じているのです。アイタスカ州立公園(Itasca State Park)の中の湖が源流なのです。ステートとは州のことでミネソタ州の中にあります。

立派な管理事務所とビジターセンターが備わっています。源流のミネソタ州からメキシコ湾に面するルイジアナ州、ニューオーリンズまで示す、巨大な俯瞰図があります。全長3,800キロメートルほどで、大きな山脈はなく流域全体がほぼ広大な農地なのですから、すごい国ですよね。

アイタスカ州立公園に隣接するようにアメリカ最大の鉄鉱石鉱山(メサビ鉄山)が備わっているのですから、できすぎです。トウモロコシ、小麦、ピーナッツ、サトウキビ、綿などの農産物が育つにも、もちろん鉄分が必要です。

汽水域はカキの大産地

そして、この川が注ぐメキシコ湾の汽水域はカキの大産地です。すごいね、などと興奮した声で話していますと、ガイドの人が話しかけてきました。

「変な外国人がなに興奮してんだろう」

と思ったようです。大竹君が、日本からはるばる源流を訪れている訳を話しました。ガイドは実に不思議そうな顔をしています。ミシシッピなら私にまかせてという立場の人ですから、当然です。

植物と鉄分の関係は知りませんでした。まして、3,800キロメートル先のカキのことなんか論外です。カキを食べたのは何年前か忘れたわ、と微笑みました。そして、

「あなた方のような視点でここを訪れた人は初めてでしょう。訪問者のサイン帳にぜひ記帳してください」

と言われ、漢字で記帳しました。

アイタスカ州立公園は岩手県ほどの広大な森林です。その中に湖があり、地下水が湧いていて、あふれた水は小川となって流れ出し、大ミシシッピ川となるのです。

湖のあふれ口は10メートルほどで、石が積んであり、その間をザワザワ声を立てながらオーバーフローしています。その水音はわたしには、ミシシッピ、ミシシッピと聞こえました。

…つづく「こんなうまいものがあるのか」…20歳の青年が、オホーツクの旅で《ホタテ貝の刺し身》に感動、その後はじめた「意外な商売」では、かきじいさんが青年だったころのお話にさかのぼります。

連載カキじいさん、世界へ行く!第30回
構成/高木香織

●プロフィール
畠山重篤(はたけやま・しげあつ)

1943年、中国・上海生まれ。宮城県でカキ・ホタテの養殖業を営む。「牡蠣の森を慕う会」代表。1989年より「海は森の恋人」を合い言葉に植林活動を続ける。『漁師さんの森づくり』(講談社)で小学館児童出版文化賞・産経児童出版文化賞JR賞、『日本〈汽水〉紀行』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、『鉄は魔法つかい:命と地球をはぐくむ「鉄」物語』(小学館)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。その他の著書に『森は海の恋人』(北斗出版)、『リアスの海辺から』『牡蠣礼讃』(ともに文藝春秋)などがある。2025年、逝去。

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高木 香織
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