日本の熊本県の八代海の河口では「クマモト」が生産されています。県の名前のまんまですね。小ぶりで丸みを帯びた殻をしています。
フランスには、大きな銀盆の氷の上に殻付きカキやムール貝、アサリ、塩ゆでしたカニやエビなどを盛った「フリュイ・ド・メール(海のフルーツ)」という豪快な海鮮料理があります。レモンを絞ったり、ソースをつけてとれたての味を楽しみます。
生命にとって鉄はどれほど大切なの?
もう何十年も前のことです。NHKの番組に北海道大学水産学部教授(当時)の松永勝彦先生がご出演されていました。松永先生は、海水の中に含まれる微量成分の分析が専門の分析化学者です。『森が消えれば海も死ぬ――陸と海を結ぶ生態学』という本を書かれています。
松永先生は、川の流域の森林全部が、魚を育む「魚付林」の役目をしているといいます。森林の落ち葉が腐ると、腐葉土になります。この中に、海の植物プランクトンを育てる養分が含まれているというのです。わたしはすぐに北海道大学に行き、松永先生に教えを請いました。そして、「鉄と植物プランクトン」のお話を伺ったのです。
今から約46億年前、地球が生まれました。そのころ、地球のまわりの大気はほとんどが水蒸気で、二酸化炭素と窒素が混じっていて、酸素がほとんどありませんでした。やがて地球は冷えてきて水蒸気が水となり、酸性雨が降ったのです。酸は地表の鉄を溶かし、海水に鉄が流れこみました。じつは地球の3分の1は鉄でできています。地球は鉄の惑星なのです。
やがて「シアノバクテリア」という植物が地球に生まれ、光合成を開始したのです。光合成によって海水中に酸素が増えると、鉄は酸化し、粒子になります。粒子は重く、海底にどんどん沈んでいきます。約15億年かかって、海水から鉄が消えたのです。だから海は貧鉄だというのです。
カキのえさになる植物プランクトンは、鉄がなければ増えることができません。植物は光合成によって二酸化炭素(CO2)をC(炭素)とO2(酸素)に分けます。地球の七割は海ですが、人間の出しているCO2の大部分は植物プランクトンが光合成をして取り込んでいるのだそうです。海にも大切にしたい大森林があるのですね。
では、鉄はどこから来たのでしょう。1つ目の道は、山から栄養分として流れてくるものです。2つ目の道は、中国大陸から飛んでくる黄砂の中に濃い「鉄分」が含まれているのです。分析化学者は、海ばかりか空中の物質も調べているのです。
…カキじいさん、世界へ行く!の連載第1回目く『「こんなうまいものがあるのか」…20歳の青年が、オホーツクの旅で《ホタテ貝の刺し身》に感動、その後はじめた「意外な商売」』では、かきじいさんが青年だったころのお話にさかのぼります。
連載『カキじいさん、世界へ行く!』最終回
構成/高木香織
●プロフィール
畠山重篤(はたけやま・しげあつ)
1943年、中国・上海生まれ。宮城県でカキ・ホタテの養殖業を営む。「牡蠣の森を慕う会」代表。1989年より「海は森の恋人」を合い言葉に植林活動を続ける。『漁師さんの森づくり』(講談社)で小学館児童出版文化賞・産経児童出版文化賞JR賞、『日本〈汽水〉紀行』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、『鉄は魔法つかい:命と地球をはぐくむ「鉄」物語』(小学館)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。その他の著書に『森は海の恋人』(北斗出版)、『リアスの海辺から』『牡蠣礼讃』(ともに文藝春秋)などがある。2025年、逝去。


