スポーツ性に優れたデュアルクラッチトランスミッション
このような場面では有段式ATが効果的だ。特に2組のクラッチを使うトルクコンバーターを利用しないタイプ(デュアルクラッチなど)は、運転感覚がMT(マニュアルトランスミッション)に近くダイレクト感も強い。ちなみに欧州では、MTが長く愛用されてきた事情があり、2組のクラッチを使う有段ATは欧州車に多く搭載されている。
ただしトルクコンバーターのない有段ATは、MTと同様、エンジンの特性が走りに大きな影響を与える。従って実用回転域の駆動力が乏しいエンジンは、ドライバーがアクセル操作を工夫したり、パドルシフトなどによるマニュアル操作で、高めの回転域でシフトアップすることが必要だ。ラフなアクセル操作をすると、滑らかさに欠ける面もあり、注意点まで含めてMT車に近い。
快適性ならトルコン式がベスト
快適性を重視するならトルクコンバーター式がベストだ。有段式ATだから、エンジン回転数、エンジン音、車速の増減が基本的に一致しており、同乗者にも違和感が生じにくい。最近はハイブリッドやCVTを搭載するノーマルガソリンエンジン車が増えたこともあり、トルクコンバーター式ATは採用車種が減っているが、快適性ではメリットが得られる。
そしてコスパ、つまり価格の割安感で選ぶならCVTだ。走行状態によっては、エンジン回転数、エンジン音、車速の増減が一致せず、クルマ好きのユーザーに嫌われる傾向もある。海外でも国や地域によって敬遠されるが、日本の軽自動車やコンパクトカーにはCVTが多く、大量生産される効果もあってコスパも優れている。
軽自動車やコンパクトカーにCVTが採用される理由
CVTが軽自動車やコンパクトカーに多く採用される理由として、優れた燃費性能も挙げられる。無段変速ATとあって、効率の優れた回転域を有効活用できるからだ。その代わり、前述のエンジン回転数や車速の増減が一致しない状態も発生する。
CVTでは快適性や楽しさは削がれるが、燃費効率が優れ、価格は割安だから採用車種も増えた。各メーカーとも、CVTの燃費効率を妨げずに、前述の違和感を抑えられるよう開発に力を入れている。
文/渡辺陽一郎(わたなべ よういちろう):自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。執筆対象は自動車関連の多岐に渡る。
写真/トヨタ、日産、スズキ、ZF