引き継がれる、永谷園のクラフトマンシップ
永谷園では、さまざまな取り組みで顧客の裾野を広げる挑戦を続けている。
「『めざまし茶づけ』を2020年から提案してきました。食欲のない朝でも手軽にサラッと召し上がれるので、それで頭と体のスイッチを入れてもらおうというものです。近年の夏はものすごく暑いので、冷水などをかけるだけで手間なくでき上がる『冷やし茶づけ』も人気で、『お茶づけ海苔』はむしろ夏場の需要が高まっています」とマーケティング本部の小田友紀子さんが開発の意図を説明する。
マーケティング本部で商品開発に携わる栗原紘明さんの言葉にも考えさせられた。
「ロングセラーとは何かを考えた結果、単に長く販売しているということだけではなく、みなさんそれぞれの思い出に残っているものなのだと感じています。ブランドであるというのは、お客様との約束を果たすということです。それを『お茶づけ海苔』は70年以上に渡り、果たし続けています。それってなかなか難しいことだと思うのです。しかしその難しいことを僕以前の開発者たちがやってきてくれたからこそ、今このブランドがお客様の思い出として残っているわけです。新しい商品を生み出して、それが長く続いていけることが、お客様との約束を果たし続けることにつながると考えています」
栗原さんに同社が数十年に渡るロングセラー商品を生み出せる理由となぜ消費者に受け入れられているのかをズバリ聞いた。
「私どもには『人々の生活に、ささやかに華を添えるお手伝いをしたい』という思いと『その実現に向けて、関係者全員であらゆる試行錯誤を重ねる』決意があります。これは、茶祖・永谷宗円から代々受け継いできたDNAです。このDNAのもと、商品を生み出すだけではロングセラーには至りません。生み出した商品を、時代・お客様の変化に合わせて常にブラッシュアップし続けた結果(≒幸運と偶然の結果)としてロングセラー商品になるのだと考えています」
永谷宗円は、創業者の永谷嘉男から十代遡る江戸中期の人物。現在の京都府宇治田原町に生まれ、1738年に煎茶の製法を発明して、それまでは高嶺の花だった日本茶の美味しさを庶民に広げた。
このDNAを受け継いだ創業者による、人々の食生活を豊かにしたい、便利にしたいという熱い思いから商品が生み出されていることが永谷園の強み。
「元々は宗円が偉い人だけではなく、みんなに美味しいお茶を飲んでほしいという思いから、現在につながる緑茶を生み出しました。幸せをみんなで共有できることを目指すという部分は弊社の核になる部分として変わらないと思います」(栗原さん)
こうした思いが「味ひとすじ」という同社の企業理念と結びつき、新たな価値を見出し、商品を生み出すチャレンジを続けていることこそ、ロングセラーを生み出し続ける原動力となっているといえるだろう。
文・写真/市村幸妙
いちむら・ゆきえ。フリーランスのライター・編集者。地元・東京の農家さんとコミュニケーションを取ったり、手前味噌作りを友人たちと毎年共に行ったり、野菜類と発酵食品をこよなく愛する。中学受験業界にも強い雑食系。バンドの推し活も熱心にしている。落語家の夫と二人暮らし。