「ものすごく美味しいものを作ってはいけない」
小川さんが続ける。「『お茶づけ海苔』はしょっぱすぎるという方もいますが、お湯を多めに入れるとか、半分だけ使うとか、この70年の中でご自身の匙加減で付き合ってくださっていると思うのです。実は一度だけ塩分量を下げた『お茶づけ海苔』を作ったことがあるんです。発売前に嗜好調査としてモニターさんに食べていただいたのですが、結果は散々でした。やはり皆さん、あのバランスがベストだと感じてくださっているのでしょう」
実は、品質開発の部署に在籍時、先輩から言われた言葉が今も心に残っているという。当時はピンとこなかったが今なら理解できるそうだ。
「『ものすごく美味しいものを作ってはいけない』というものです。例えば『お茶づけ海苔』ももっと海苔を入れたら、海苔の風味が良くなりますが、あそこで留めておくことが黄金比なのでしょう。期待されているところのほんの少し上を狙うことで、納得いただける価格で提供でき、毎日でも食べ飽きないのではと個人的に思っています」
確かに、美味しいけれど高級なフレンチやうなぎなどは、胃袋的にもお財布的にも毎日は食べられない。
だからこそ、手頃な価格の永谷園商品はそっと日々の生活に寄り添ってくれるのだろう。
さらにこれを聞いて思い出したのが、消費者発信のアレンジレシピだ。以前は、お正月やひな祭りなど限られた際での用途が多かった「松茸の味 お吸いもの」が近年人気だ。そのきっかけになったのが汁物としてではなく、だし調味料として活用するユーザーが出てきたこと。この流れにきっちり永谷園も反応し、双方向性を持った好循環を生んだ。さまざまなアレンジレシピを展開し、用途拡大の提案につなげられたことで、より広い支持を得ることになった。
「品質管理は徹底しますが、お客様の手に渡ったらもうその方のものです。それぞれの召し上がり方を楽しんでくださっていると思います。SNSが流行っている時代に、ご自身の食べ方を発信くださる方々によって、商品力が増してきた感じがします」(淡路さん)
いろいろな人がレシピをアレンジしていて、簡単で美味しそうだったら自分もやってみたくなるというのは人の常だ。変わらぬ味がちょうどいい塩梅で、美味しいけれども完璧ではないので自分のアイデアを入れる余地がある。それによってより商品への愛着を持つことができるのだろう。この愛着・愛情がますますロングセラーへとつながっていく。