「北投石」が産出する国内唯一の場所
岩盤浴が体によいとされるのは、温熱効果はもちろんのこと、地中に埋まる、特別天然記念物の「北投石」の影響もあると考えられてきた。
北投石は日本の玉川温泉と台湾の北投温泉に見られる希少な鉱物。放射線を発する石として明治31(1898)年に玉川温泉で発見されて以降、研究が進められ、昭和27(1952)年には国の特別天然記念物に指定されている。
微量の放射線によるラジウム・ラドンの「ホルミシス効果」(人の体が細胞や組織を守ろうとして、組織修復力や免疫力がアップする)が、がんなどに有効なのではないかと言われてきたが、現在は科学的根拠がはっきりとは分かっておらず、医学的な根拠を示す医師もいない状態なので、施設側も効果・効能は示していない。
私は玉川温泉周辺に転がっている岩が「北投石」なのかと勘違いしていたが、北投石の成分は温泉に含まれている微量のバリウムが結晶化したもので、地下に埋まっている。「10年で1mmくらいしかならないので、5cmの北投石なら生成するのに500年もかかる」(玉川温泉の畠山米一代表取締役社長)という希少なものだ。
硫酸バリウム(重晶石)にストロンチウム、鉛、ラジウムなどを含む放射性鉱物で、放射線を出してはいるものの「ごく微量で、安全の指標としての人体の放射線許容量からみても安全域の量」(『玉川温泉 湯治の手引き』(前田眞治著)という。
とにもかくにも、「病が改善した!」と感じて、この温泉に通う人がたくさんいるのだから、土地なのか空気なのか温泉成分なのか、何かしらの力が人体に働いているのだろう。
私が訪れたときにも、愛知県から、退院後あまりときを経ずに、玉川温泉をめざして来た一人旅の女性と遭遇した。5回目のガンの手術のあと、新幹線を乗り継いで遠路はるばるやってきたという。それほどまでに人々を惹きつける力を持つ温泉宿は日本広しといえども、数少ないのではないだろうか。
「ここがなければ、私、死んでたわ」。70代後半か80代前半と思しきその女性がポツリといったその言葉が耳に残った。



