オーストラリア大陸の南方に浮かぶタスマニア島に、世にも奇態な美物館がある。その名は「MONA」。アメリカ・ニューヨークの「MoMA」と一瞬見紛うが、あちらはご存じのようにThe Museum of Modern Art(近代美術館)の略称。対して、こちらはMuseum of Old and New Art(新旧美術館)の略だ。
岬の突端に建つ“要塞”のような美術館「MONA」
この美術館の何が「奇態」なのかと言えば、オーナーのバックグラウンド、設立の動機から展示作品の内容、展示方法まで──要は全てが、ということになる。
タスマニアの南部に位置するホバートはこの島最大の都市だ。人口は約26万人(2020年9月時点)。長らく閑静で穏やかな南の島(と言っても南半球の話なので、トロピカルではない)の小都市だったが、ここ数年、オーストラリア本土からの移住や投資がブームになり、にわかに地価バブルが起こっている。
複雑に入り組んだ海岸線に沿って開けたホバートの郊外、岬の突端に要塞のような佇まいでMONAは建つ。美術館の主要部分は地下にある。その深さは地下3階。岩を削って掘り下げられたその巨大な躯体だけでも見る価値がある。館内には順路もなければ、作品ごとの名前やデータを記したプレートの類もない(専用デバイスで作品の詳細を聴くことはできる)。展示作品は不定期に入れ替わる。
展示作品の多くは、刺激的でユニークだ。中には挑発的、実験的と形容したくなるものもある。例えば、人間の消化器官を機械的に再現したインスタレーション(展示)がある。条件を整えた人工的な消化液の中に実際の食物を放り込んで消化のプロセスを見せるというもの。展示を始めてすぐに悪臭を放ち、来場者の不評を買ったため、すぐに別の形の展示(匂いは出ないがテーマは同じ)になった。