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タスマニアの冷涼な気候、ブドウは天然の酸に恵まれる

クリーンな印象の醸造施設では、赤ワイン用の黒ブドウが小さな開放タンクの中で発酵中だった。コナーによると、同じ区画のブドウでも小さく分けて醸造し、それをブレンドすることでワインに奥行きを与えるようにしているとのこと。

レストランに併設されたセラードア(試飲・販売コーナー)で、12種類のワインをテイスティングした。

試飲したワインの一部。右端は、ウォルシュ氏が買収したプレミアム・ワイナリー「ドメーヌA」のワイン。こちらも現在はヴァン・デル・リー氏が造りを担当している

エントリーレーベルの「プラシス ソーヴィヨン・ブラン2021」は品種特性の草の香りがよく出て、そこにトロピカルフルールや蜂蜜のトーンがオーバラップしてくる。爽快感のある白ワイン。

上級レーベルの「ミューズ シャルドネ2019」は、熟れた青リンゴに乳酸菌飲料やオートミールのようなトーンが重なり、複雑でリッチ。コナーによると、気温差のある複数の畑からのキュヴェ(ワイン)をブレンドすることによって、複雑みを出したとのこと。

赤ワインで出色だったのは、「ミューズ シラー2016」。プルーン、イチゴジャムなどのアロマがくっきりと立ち、口の中では厚みがある。

総じて、生き生きとした酸に特徴があるように感じた。そのことを告げると、コナーは次のように語った。

「酸は私のワイン造りのスタイルの核となる部分です。 オーストラリアでは、場所によってワインに十分な酸が得られないところもあります。が、ここタスマニアでは冷涼な気候のおかげでブドウは天然の酸に恵まれます。それは賞賛されるべきことだと思います。この特性を表現するために、私は酸味を残すことを選びました。具体的にいうと、MFL(マロラクティック発酵。リンゴ酸を乳酸に変えることによりワインの酸味を和らげる工程)を行いません。酸を強調し、酸を中心にワインを構築しようとしているのです」

真剣試飲の後は、コナーのはからいで、レストランに移り、ランチを摂りながらさらにワインを楽しんだ。「ワラビーのタルタル」「海草がたっぷりと乗った発酵カボチャのリングイーネ」といったクリエイティブなメニューを食べながら、酸と果実味に秀でたワインを堪能した(ワラビーとシラーの相性が抜群だった)。奇態なミュージアムを鑑賞した後だったせいか、その食事も芸術的な刺激に満ちた体験であるように思われた。

ワラビーのタルタル。噛み応えがあり、肉の旨味を楽しめる。決して「奇食」の類ではない

ワインの海は深く広い‥‥。

Photos by Yasuyuki Ukita
Special Thanks to:Tourism Australia, Tasmanian Department of State Growth,Tasmanian Chamber of Commerce & Industry (TCCI)

浮田泰幸
うきた・やすゆき。ワイン・ジャーナリスト/ライター。広く国内外を取材し、雑誌・新聞・ウェブサイト等に寄稿。これまでに訪問したワイナリーは600軒以上に及ぶ。世界のワイン産地の魅力を多角的に紹介するトーク・イベント「wine&trip」を主催。著書に『憧れのボルドーへ』(AERA Mook)等がある。

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