2000年以上前に造られていた“マリンワイン(海のワイン)”を復活させたワイナリーがあるという話を知ったのは、2021年の9月のことだった。
エルバ島のワイナリー当主、アントニオ・アリギ氏のプロジェクト
それはイタリア・トスカーナ州のエルバ島にあるワイナリー〈アリギ〉の当主アントニオ・アリギ氏が手掛けたプロジェクトで、島のブドウ畑で収穫したブドウを5日間水深10mの海の中に沈めてから引き揚げ、天日で干してからテラコッタのアンフォラ(素焼きの甕)で醸造するというもの。
世界のあちこちで、ワインの入ったボトルを海に沈め、どのように熟成するかを検証するプロジェクトはある。シャンパーニュの大手メゾン、ヴーヴ・クリコがフィンランドの海で行っている「セラー・イン・ザ・シー」が最も有名だろう。この企画は元々、2010年に同海域で見つかった沈没船から200年以上前に造られたシャンパーニュ47本が引き揚げられたことがきっかけになっている(200年熟成のシャンパーニュは全く劣化していなかったそうだ)。それとは別の話だが、僕も10年ほど前にスペイン北部ガリシアの海で“水中熟成”された白ワインを飲ませてもらったことがある。しかし、そのワインは半ば海水の味がして、お世辞にも旨いとは言えなかった。きっと水圧にコルク栓が圧され、海水がボトル内に染み入ってしまったのだろう‥‥。
今回の話題はそういう話とは似て非なるものだということを是非ともこの時点で強調しておきたい。これは、ワインを海に沈める話ではなく、ブドウを海に沈める話なのだ。