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2000余年の時を経て復活したマリンワイン「ネソス」

2021年7月、2000余年の時を経て復活、リリースされたマリンワインの名は「ネソス」(ギリシャ語で「島嶼」を表す言葉)2019年ヴィンテージ の生産量はわずか240本で、たちまち売れ切れてしまったという。

この「復活劇」の端緒となったのはミラノ大学のアッティリオ・シエンツァ教授だ。ブドウ栽培の研究者で、レオナルド・ダ・ヴィンチのワインの再現に取り組んだことでも知られるシエンツァ教授は、2500年ほど前にギリシャのキオス島で造られていた「富裕者のワイン」についてリサーチをしてきた。キオス島の商人はその特別なワインを当時地中海沿岸で最も栄えていたマルセイユに運んで売り、大きな成功を収めた。歴史家プリニウスはジュリアス・シーザーが催した祝賀会でこのワインが振る舞われたと記している。キオス島の商人たちは航海の途中にエルバ島にも立ち寄っていたことがわかっており、「富裕者のワイン」の評判がエルバ島にも伝わっていたであろうことは容易に想像がつく。一方、キオス島のワイン生産者はこのワインの製法を秘密にして守っていたという。

収穫したブドウをエビの養殖用の籠に

2018年、シエンツァ教授がエルバ島を訪れ、冒頭に登場したアリギ氏と出会ったことで、古代ワイン復活への気運が一気に高まった。ピサ大学から栽培・醸造の研究者2人が加わり、実証実験と試行錯誤が始まった。選ばれたブドウ品種は島の在来種であるアンソニカ。これは東エーゲ海東部の古代ブドウであるロディティスとシデリティスの交配によって生まれたことがわかっており、キオスで栽培されていたアンソニカ・インゾリアとよく似ている。果皮が厚く、海の深みに沈めても破裂する心配がないという利点もあった。初年度は、ブドウを沈める深さや時間を変えて実験が繰り返され、最終的に40本のワインができたが、それらが市場に出ることはなかった。その年の研究成果を生かして造られたのが19年ヴィンテージ の240本というわけだ。

ブドウの入った籠をダイバーが海へ

海に沈めることで得られるメリット

なぜ海にブドウを沈めるのか? という素朴な疑問が浮かぶことだろう。まず、海水の塩分と潮流がブドウの果皮を覆うブルームと呼ばれる蝋質を取り除いてくれることがポイントであるという。これにより後段の天日干しの時間が短くて済む(ブドウのフレッシュさが残せる。参考までに、イタリア各地には収穫後のブドウを天日干し、もしくは陰干しにしてから醸造するワイン製法が今日でも残っている)。さらに、浸透圧により微量の塩分が果実内に入り込むことで、それがワインに独特の風味を与える。塩分には抗酸化・抗菌の作用もあり、酸化防止剤(SO2)を添加することなしにワインを造ることができるというメリットもあるという。また酵母の添加も不要とのこと。もともと果皮に付着している野生酵母が海水によって活性化するのだろうか。

水深10mの海中に漂う籠。ブドウは海水の影響を少しづずつ受けていく

除梗されたブドウは皮付きのままアンフォラに入れられ、発酵後も6カ月間果皮と共に寝かせられる。瓶詰め後さらに1年間の熟成を経てようやくリリースとなる。醸造プロセスから見ると、白ブドウを赤ワインの醸造法で醸す、皮醸しの、いわゆるオレンジワインで、そこにブドウを天日干しすることによる何らかの作用が加わっていると推測することができる。

天日干ししたブドウをアンフォラへ
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浮田泰幸
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