国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが休日のドライブで聴きたくなる名盤を紹介します。今回は、英ロック歌手、ロッド・スチュワートの『ATLANTIC CROSSING(アトランティック・クロッシング)』(1975年)です。大ヒット曲「セイリング」を収録。英国で1位、全米でも9位を獲得した記念碑的なアルバムです。ロッド・スチュワートは1945年1月、英ロンドン生まれ。2024年は、3月20日に東京・有明アリーナで、15年ぶりの来日公演を実施。その魅力的なヴォーカルに、多くのファンが酔いしれました。79歳の現在も、ライヴで元気な姿を見せています。
ワーナーと契約した第1弾、アメリカでの成功を狙う
79歳という年齢からすると、2024年、今年の来日公演が最後と思われるロッド・スチュワートが、1975年に発表した6枚目のオリジナル・アルバムが『ATLANTIC CROSSING』だ。アルバムのラストを飾る「Sailing (セイリング)」は、今回の来日公演ではアンコールで歌われた。
1960~70年代のヨーロッパのレコード市場はアメリカ全土に比べて規模が小さかった。 そこでザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、エリック・クラプトンなどアメリカン・マーケットで成功を狙うミュージシャンが多かった。
この『ATLANTIC CROSSING』もアメリカで本格的な成功を望むロッド・スチュワートが新たにワーナー・レコードと契約した第1弾で、レコーディングもアメリカで行なわれた。
敏腕プロデューサーのトム・ダウドが担当、バックは幻のギタリスト
プロデューサーには、オールマン・ブラザーズ・バンド、エリック・クラプトンがいたデレク・ アンド・ザ・ドミノスなどを手掛けた名匠トム・ダウドが担当した。バックにも、ブッカー・T&ザ・MG’、幻の名ギタリストのジェシ・エド・ディヴィスなどそうそうたるメンバー が揃った。
ジャケットもイギリスから米ニューヨークをひとまたぎするロッド・スチュワートのイラストで、アメリカ制覇を狙う彼の意気込みを感じさせる。『ATLANTIC CROSSING』~大西洋横断というタイトルにもロッドの野望が伝わる。
1枚でロッド・スチュワートのヴォーカリストの両側面が楽しめる
チャート的にはアメリカで9位、本国イギリスでNo.1と大成功を収めた。その他、ノル ウェー、オランダ、スウェーデン、ドイツなどでも大ヒットとなった。
元々はブルーズやR&Bを歌うことで、その歌唱力を鍛えあげてきたロッド・スチュワートだが、本作ではその後につながるスタイルを手に入れたと思える。全世界出世作と言えよう。
本作が発売された1975年にはCDがまだ登場していなかった。そこでレコードのA面を“Fast half”、B面を”Slow half”と題し、A面はロック色が濃いめ、B面はバラッド・ タイプで構成されていた。A面の荒削りとも思えるロックのロッドを楽しみ、B面で繊細なヴォーカル・テクニックを聴く。1枚でロッド・スチュワートのヴォーカリストの両側面が楽しめる。当時、A面は朝や昼間、B面は夜にじっくりと聴き込んだものだった。